JRIレビュー Vol.5, No.123 結婚をめぐる環境変化と婚姻数減少の要因 -地方で加速する婚姻減少の要因分析を中心に- 2025年04月08日 藤波匠わが国で加速する少子化への対処として、婚姻数や有配偶率を維持していくことが、極めて重要であると考えられるものの、昨今、大都市に比べて、地方においてそれらの低下が顕著である。近年の主として地方において有配偶率が低下する要因を計量的に分析し、その対策について検討を行った。分析の結果、わが国の婚姻数および有配偶率の低下は、主に地方において伝統的な家族形態が失われ核家族化が急速に進展していることと、産業構造や雇用の状況変化による地域人口の男女比の変化、とりわけ男性人口が女性に比べて多い状況の拡がりによるところが大きいことが明らかとなった。近年、地方を中心に有配偶者の核家族比率が上昇しており、それが有配偶率の低下を招く一因となっている。伝統的な家族形態が失われ、子の結婚に対する親世代のかかわりが減っているためと考えられる。ただし、現状多世代同居への回帰や子の結婚に対する親のかかわりを強めることを政策的に誘導することは現実的ではない。出生時におおむね1.05対1の比率である人口の男女比が、25 ~ 34歳になると地域差が生じるのは、人口移動の結果である。人口移動は、地域の産業構造や経済活力の差異により生じる。2000年頃には東京圏や製造業が盛んな地域への男性の流入が多く、受け入れ地域で男性の割合が高い状況にあった。ところが、近年人口移動に見られる男女割合に変化がみられ、女性の大都市への流入が顕著となっている。その結果、東京など大都市において、女性の割合は高まりがちで、男女比が1に近づく傾向がみられ、逆に地方で男性の割合の上昇が顕著となっている。女性よりも男性の方が多い地域では、男性がパートナーとなる女性を見つけづらくなり、有配偶率の低下が生じているものと考えられる。こうした状況に対し、婚姻数の減少、少子化に直面する地方自治体では、とりあえず結婚に至る手掛かりを得られやすいとみられがちな婚活イベントやオンライン婚活などのような企画に力を入れているが、その成果は決して芳しいものとは言えない。女性と男性がともに経済的に家計を支えることが当然となりつつあるという結婚生活の質的変化から、大都市に集まる傾向にある女性を地方に呼び込むうえで、地方における雇用の実情が大きな障壁となっていると考えられる。婚姻数減少対策としては、単に出会いの機会を提供すればよいというものではない。低下が著しい地域の婚姻数や有配偶率を引き上げるためには、女性が地方に定着しやすい環境の創造が不可欠であり、地域の女性雇用の質・量両面の改善が必要と考えられる。地方自治体には、腰を据えた長期的視点で、女性雇用の環境改善に取り組むことが求められる。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)