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JRIレビュー Vol.5, No.123

こども基本法施行を踏まえた高校教育の課題 -求められる適格者主義からの脱却-

2025年04月07日 池本美香


高校年齢の子どもに関しては、いじめの重大事態や自殺の増加などにみる幸福度の低下、定員内不合格といった障害のある子どもの分離・排除などが懸念される。2023年4月のこども基本法施行および、子どもの権利条約の趣旨を踏まえて、高校教育の在り方を見直す必要がある。本稿では、これらの権利侵害の背景にある、わが国の高校教育における「適格者主義」に焦点を当て、海外の動向も参照しつつ考察した。

「適格者主義」とは、高校教育を受けるのに足りる、あるいはその学校の教育を受けるのに足りる資質や能力があるもののみに入学を許可するという考え方である。戦後の制度発足当時には、高校は無償で希望者が全員入学でき、職業課程と大学進学課程を一つの学校に集める方向が目指されていた。しかし、進学率の上昇と戦後のベビーブームによる生徒急増に対し、1963年、文部省は希望者全入の方針を撤回し、入学者を選抜する「適格者主義」に転換した。1984年には、高等学校教育全体への適格性ではなく、多様化する高校がその特色に応じて適格性を判定する「新しい適格者主義」の方針が示され、現在に至っている。

これまで適格者主義が問題視されてこなかったのは、同質の生徒集団の方が教員の負担が少なく、生徒にとっても授業がわかりやすく、いじめなどのストレスが少ないと考えられているためである。そうした考えのもと、高校は偏差値、障害の種類や程度、教科や授業スタイルの特色などによって多様化、細分化され、通信制課程や特別支援学校高等部の生徒数が急増している。一方で、適格者主義には、1)定員内不合格などの地域の学校からの分離・排除、2)適格性を失った場合の教育機会の喪失、3)適格性を維持しなければ排除されるという不安やストレス、4)子どもの意見尊重の不徹底、といった子どもの権利擁護の観点からは見過ごせない問題点がある。

諸外国においては、子どもの権利実現に向け、わが国のような適格者主義からの脱却を図る動きが見られる。注目すべき動きとしては、1)義務教育期間の延長と訓練・就労という選択肢の付与、2)学校ごとの入学者選抜の廃止(非選抜制)、3)インクルーシブな学校運営(総合制)、4)各学校の運営や高校教育行政の検討における子どもの意見の反映(生徒参加)、がある。

わが国の高校教育も、すべての子どもを将来の幸福な生活につなぐ役割や、子どもの権利条約や民主主義が浸透した文化を体験し促進する役割を強化すべきである。もはや当然視されている適格者主義から脱却し、高校教育における様々な分離・排除をなくし、子どもの意見が尊重される方向に舵を切ることが求められる。


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