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地域の天然資源を活かし、地域の移動課題を解決する

2025年04月08日 逸見拓弘


 特に地方部では、買物、通院、通勤通学といった日常生活の移動を支える地域公共交通の必要性が、これまで以上に高まっている。主な要因は2つある。1つは、地域住民の高齢化の進展である。足腰などの身体に不自由を感じるようになると、これまで歩いていた近距離圏への移動にも公共交通が必要になる。また、高齢ドライバーの自動車事故に対する社会的な関心の高まりなどから免許返納も進み、自ら移動手段を有さない住民も増加している。もう1つは、長距離移動を強いられる機会の増加である。特に地方部では、スーパーマーケットやガソリンスタンドなど日常生活に必要な近隣商店の減少、病院や学校などの公共施設の集約統合等などが進んだ結果、地域住民は日常生活の中でより遠方の目的地まで移動しないといけない機会が増えている。こうした背景から、地域公共交通へのニーズはこれまで以上に高まっている。

 一方、地域公共交通を支える交通事業者の経営状況は苦しい。最大の要因は人手不足の深刻化にある。自動車運転業の有効求人倍率は2021年時点で2.09だが、これは全産業平均の有効求人倍率1.03の2倍超の数値であり、自動車運送業は特に人手不足が顕著な産業となっている(※1)。さらに、2019年時点で就業者の6割以上が55歳以上とのデータも存在し、今後退職者が増加して人手不足の深刻化に拍車がかかることは明白である(※2)。こうした厳しい経営状況から、交通事業者は、より採算性の高い運行エリアに限られた人材を充てる選択を取らざるを得なくなっている。

 地域が抱える移動の課題の深刻化をうけ、国も制度整備や地域支援を積極的に進めている。国土交通省は、2024年に「交通空白」解消・官民連携プラットフォームを発足させた。これは、全国各地の地域交通の取組みを補助金交付も含め、国として支援するための枠組みだ。こうした国の後押しもあり、近年では自治体や住民組織が自ら主体となるコミュニティバスや乗合タクシーなどの創意工夫に富んだ地域独自の多様な交通サービスが全国各地で見られるようになっている。

 移動課題の解決策として、自動車の次世代技術の“CASE”に期待が寄せられる。それぞれ、Connected(通信機能)、Autonomous(自動運転)、Sharing(共有)、Electric(電動化)の頭文字だ。CASEの中でも、特に、注目すべきはE(電動化)と考えている。なぜなら、EVに搭載されている蓄電池こそが、域外からの脱炭素投資を呼び込むことで採算性を高め、地域公共交通を支える基盤となり得るためだ。

 移動の課題が深刻な地方部ほど、風力、水力、地熱等の豊かな天然資源が存在する。こうした天然資源から得られる再生可能エネルギーには余剰電力が生じている。この余剰電力をEVバッテリーに蓄電しEVを用いた交通サービスに利活用すれば、運行費用の約1割を占めるとされる燃料油脂費の費用削減に繋がる。さらに、地域公共交通を運行しない時間帯にEVに蓄電した電力を販売すれば副収入を得られる可能性もある。こうして事業の採算性が高まれば、地方部こそが交通事業者にとっても魅力的な運行エリアになり、人材も充てやすくなる。加えて、EVの蓄電池は災害時の非常用電源になるため、防災面での活躍も期待できる。

 日本総研では、上記のソリューションに着目をし、2025年2月にReCIDAコンソーシアムを設立した(※3)。まず第一弾として、鳥取市佐治町をフィールドとし、全国の自治体や民間企業とともに活動を進めている。鳥取市佐治町は、高齢化率が50%を超え、スーパーマーケットやガソリンスタンドの撤退、公共交通の減便に直面している地域であり、加えて近年、台風の被害を受けた地域である。鳥取市佐治町にて、上記の事業モデルの検証を行い、将来の実装を目指す。さらに、事業モデルの全国各地への横展開を構想している。地域の天然資源、EVを活用して地域公共交通の課題の解決を目指す取組みに関心をお寄せいただける方はぜひご連絡いただきたい。

(※1) 国土交通省「地域住民等が主体となった地域交通の確保の取組の紹介」
(※2) 国土交通省「国土交通白書2020」
(※3) 過疎地域での持続的な交通事業モデルの社会実装を目指す「ReCIDAコンソーシアム」 の設立について


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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