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事業所内「学童保育」の可能性

2025年04月08日 南 かのん


 近年、従業員の育児と仕事の両立を支援するために、「事業所内保育所」の設置が増えた。直近では待機児童数の全国的な減少を背景に国による導入促進策は止まっているが、2021年の厚労省の調査によると、認可外保育施設のうち、「事業所内保育施設」は7,906か所設置され、利用児童数は105,794人にのぼる(※1)。2023年の厚労省の調査では、地域型保育事業所の「事業所内保育事業所」は669か所設置され、定員は15,386人である(※2)。これらの事業所内保育所は、乳幼児期の子どもを抱える親にとって心強い存在であり、安心して子どもを預けられる場所として重宝されている。

 保育所の待機児童の減少と反対に、小学生については、2024年のこども家庭庁の調査(※3)によれば学童保育の登録児童数が過去最高数を更新し、待機児童の数も17,686人を記録している。しかし、事業所内「学童保育」という存在は一般的ではなく、筆者の知る限り存在しない。子どもが小学校に入学したときの、放課後の居場所確保は「小1の壁」問題として知られてきたが、企業の対応は短時間勤務や在宅勤務など、保護者の働き方を柔軟にする施策が中心である。

 そこでもし企業が事業所内に学童保育機能を備えることができれば、課題解決の一助になるのではないかと考え、「小1の壁」と「事業所内学童保育」に関するアンケート調査を独自に実施した。調査概要は以下の通りである。本調査ではインターネット調査のパネルを用いて全国の共働き家庭を対象に調査を行った。表1に調査概要を示す(※4)

表1 調査概要

 調査によると、子どもの学童期において、6割以上の母親が何らかの働きにくさを抱えていることが明らかになった(図1)。働きにくさの代表例として、安心できる預け先の確保が困難なことが挙げられている。また、母親の8割以上が従来と同じように働きたいと感じており(図2)、そのためには安心できる子どもの預け先の確保が必要であることが示された。

図1 子どもの学童期の働きにくさ

図2 子どもの入学前後での就労形態維持の希望


 一方、預け先として公立学童保育を利用している人は共働き家庭の45%に留まっている(図3)。公立学童保育ではなく、民間学童保育のみを利用している人は、その理由として定員不足や預かり時間の短さ、地域的な選択肢の無さを挙げている。また、学童保育を利用しない人の中には、「子どもが利用を嫌がった」という回答も「その他」の自由回答に多く挙がった。家から通える範囲に民間含め複数の学童保育がある場合、気に入った場所に通うという選択もあるだろうが、金銭的、地理的問題などで選択肢を持てない人も多くいると考えられる。
 「事業所内学童保育」がもしあれば、利用を検討してみたいか、という問いに対しては、過半数が「検討したい」と回答した(図4)。事業所内学童保育の存在は働きにくさを感じている人の多くに受け入れられることが予想される。


図3 学童保育の利用状況


図4 事業所内「学童保育」の検討可能性

 事業所内学童保育があれば、従業員は子どもの預け先としてもう一つの選択肢を持つことができるようになる。企業にとっては、人材の離職を防ぐ施策となり、また採用活動時の強い魅力となる。2019年に東京商工リサーチによって行われたアンケート調査において、事業所内保育所を設置している事業者は、「人材の採用に有利」(全体:70%、中小企業:57.2%、大企業:41.3%)、「外部からの企業イメージの向上」(全体:41.5%、中小企業:41.7%、大企業:41.3%)などを効果として挙げている(※5)。企業が保育所の“その先”である学童保育まで対応できれば、今よりさらに従業員にとって働きやすく、就職活動中の人にとっても非常に魅力的に映るだろう。

 選択肢が増えるメリットは、大都市圏よりも、民間学童や習い事のサービスが少ない地方でより大きいと考えられる。特に工業団地・工業集積地域などにおいては、子育て世代の人材獲得面での差別化をはかりうる。工業集積地域においては、単独企業による設置だけでなく、複数企業による共同運営も現実的な選択肢となるだろう。

 今回の調査は、共働き世帯の「母親」にフォーカスしてアンケートを行ったが、この問題は父親を含むすべての共働き世帯に共通する課題である。誰もがキャリアを中断せず、安心して働ける仕組み、そしてすべての子どもたちが安全で豊かな放課後を過ごせる環境づくりが求められている。事業所内「学童保育」は、多様な個と社会が共に育ち、幸せになる「共育ち社会」の実現に向けた施策の一つになり得るのではないだろうか。

(※1)令和3年 地域児童福祉事業等調査結果の概況
(※2)令和5年 社会福祉施設等調査の概況
(※3)令和6年 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況
(※4)調査において、まず日本在住の20~59歳女性、既婚かつ小学校1~3年生の子どもを持つウェブ調査会社のモニター10,000人に対してスクリーニング調査を実施し、「共働き」世帯であると回答した400人に対し、本調査を実施した。
(※5)東京商工リサーチ「事業所内保育所」設置に関するアンケート調査(2019年2月20日~3月6日実施)


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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