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本質的な社会課題解決に向けて ~地域性・将来世代への考慮も必要に~

2025年01月06日 今泉翔一朗


企業活動のインパクトで注目される「地域性」と「将来世代」
 2025年になった。国連サミットでのSDGs採択から10年の節目を迎え、企業が自らの活動による環境や社会への正負のインパクト(影響)を考慮することはもはや当たり前となっている。企業には、より本質的で具体的な社会課題解決がすます求められ、例えば、気候変動領域では温室効果ガス排出量の多寡をもって、企業活動によるインパクトを説明するようになった。
 さらに、地域における環境や社会の課題へのインパクトについても説明する企業が増えつつあるが、これらの場合、企業による影響や貢献を一概に語ることは難しい。例えば、同程度の地下水使用量でも、地下水が豊富な地域に与える影と、地下水が枯渇傾向にある地域に与える影響では、当然後者の方が影響は大きくなる。企業の説明では、こうした「地域性」を考慮することが求められる。
 また、最近特に注目されるのは、具体的なインパクトの説明に「将来世代」への考慮を加えることである。気候変動にしても、自然環境の毀損にしても、現在世代だけでなく、将来世代にも影響が及ぶためである。

「未来の地域で生きる将来世代」を想像することが必要
 こうした中、従来は考慮されてこなかった将来世代を代表する若者の意見を、事業での意思決定の一部に取り入れる企業も現れはじめた。その筆頭といえるユーグレナでは、初代CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)に任命した高校生による、「ペットポトル商品の全廃」という提言を実際に実現させている。
 一方で、もう一つ重要な「地域性」を考慮するのにはさらなる工夫が必要になる。ある若者から声を聴くとしても、その若者は、特定の地域のこと、あるいは先述の廃棄プラスチック問題などのような一般的な問題しか知らないはずである。地域の身近な自然の荒廃や人々の生活を支えるコミュニティの欠如といった地域問題について考えるには、一部の若者の世代の声を聴くだけでは不十分である。
 企業が、地域性を考慮して将来世代へのインパクトを考えるには、若者も含めた、地域のことを知る多様なステークホルダーとともに、「未来の地域で生きる将来世代」を想像する必要がある。そして、その人々が豊かな生活を送るのに必な自然やコミュニティ、施設やサービスは何か、それらに対して、企業はどのような正負のインパクトを与え得るかを考えなければならない。

未来の人々の姿「未来ペルソナ」などでまちづくりを検討
 地域性と将来世代を考慮した取り組み例として、2023年度に開始された滋賀県長浜市における南長浜地域まちづくりプロジェクトがある。2050年を見据えたコンセプトの検討から始まり、現在はビジョンや具体施策を検討している。
 ここでは議論の前提として、未来の人々の姿である「未来ペルソナ」を作成した。地元の中高大学生のほか、社会人や高齢者までインタビューを行い、マクロな社会・環境・技術面の未来予測情報も踏まえながら、年代や家族構成など異なる属性を持つ7人の未来ペルソナが出来上がった。
 未来に残すべき、あるいは、新たに構築すべき地域特有の物事については、物事間の関係性を「未来エコシステムマップ」として描いた。このマップからは、地域の自然やコミュニティが相互に依存し合っていることや、今後維持し続けるためには、関係人口を地域活動にさせていくことの重要性などが示唆された。
 最終的に、この未来ペルソナと未来エコシステムマップをもとに、まちづくりのコンセプトが検討・策定された。未来ペルソナを設定したことで、本検討に参加した地域の人々が自らの利害を離れて意見を出し合う効果が認められた。現在は、このコンセプトをもとに、ビジョンや具体的なハード・ソフトの施策検討を行っている。
 これは、日本総研が武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所の岩嵜博論教授とともに研究・開発に取り組んでいる、未来に生きる人を中心に据えた新たなデザイン方法論「次世代中心デザイン」を活用した取り組みである。
 将来世代へのインパクトを考慮した事業は今後一層求められることになる。長浜市の事例は自治体主導での検討であったが、企業の間でもこうした取り組みは広がっていくと考えられる。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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