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個・孤の時代の高齢期の課題とどう向き合うか

2025年04月08日 沢村香苗


 現在の日本のような「個・孤の時代」には、高齢期を迎えたとき、心身の機能低下に対応しながら生活を維持するだけでなく、債務の支払いや財産の分与、役割の引継ぎに加えて火葬納骨に至るまで、自分の存在を完結させる手続きについても「自ら」行わなければならないという困難を抱える人が増えていく。同じような困難を抱える人が増えれば「課題」と呼ばれるようになるが、この課題について語る際に、「おひとりさま」や「身寄りのない高齢者」という言葉が前面に出がちであることについて、筆者にはずっと歯がゆい気持ちがある。「ひとり」や「身寄り」という言葉が、配偶者や親族の有無と強く結びついているため、個・孤の時代の高齢期に課題を抱えるのは、独身の人や親族と疎遠な人に限られているような印象をどうしても与えてしまうからだ。この1年、個・孤の時代の高齢期の課題が注目され、メディアからの取材や講演の依頼がかつてないほどに多かった。広く課題を共有したいと語るほどに、一人ひとりの人生から離れ、「課題を挙げるだけなく答えを教えてほしい」というように、他人事と思う人を増やしているのではないかという不安を感じてしまうことがある。

 一方で、真剣に自分事としてこの課題を考える場に参加する機会にも恵まれた。先日は、子どものいない人の団体である一般社団法人WINKが主催するワークショップで講演する機会を頂いた。こちらのワークショップでは筆者の話はきっかけにすぎず、参加者それぞれが、これから自分のために何をすべきか、他者のために何をすべきか、国や自治体に何を求めたいかといったことを熱く語っていた。ディスカッションを聞きながら、私はこんなに真剣にこれらのことを考えたことがあるだろうか、とわが身を反省しつつ、課題を直視することでこんなにポジティブな方向にエネルギーを注げるようになるのかと、希望を感じた。

 また、「身じまいを語る市民対話会」を行う機会もあった。ここでは、65歳以上の方に集まってもらい、高齢者サポートサービスを取り上げたTV番組を視聴し、「自分が死んでしまった後のことを考えたことはあるか」「老後や死後の世話をしてくれるサービスを利用したいと思うか」といった問いへの答えをそれぞれが言葉にして、お互いの考えを聞いた。こちらは参加者の年齢が高めで、実際に配偶者を亡くした方もあれば、子どもが周りにいて自分のお墓も用意してある、という方もいた。何もかも自分でやらねばならないという状況ではないので、日々の生活を大切にしながら、子どもたちに迷惑をかけないように、自分のペースで身辺整理をしているという話が多くあった。

 思い煩わず、日々を平穏に過ごし、人生を全うできればそれは何よりよいことで、毎日「自分はどうあるべきか」「いざという時のためにどうしたらいいか」と自問自答するのは多くの人にとってあまり楽しいことではないかもしれない。だから、個・孤の時代の高齢期の課題に積極的に目を向ける気になれなくてもそれは自然なことだと思う。周りに助けてくれそうな人がいるなら、その人たちとのつながりを大切にしながら、いつか助けてもらう時のために、自分の荷物をなるべく軽くしておくというのも、一つの向き合い方だろう。

 いろいろな成り行きの末に、課題提起をして回る立場になった者として、個・孤の時代の高齢期の課題の解像度を高めることは重要である。一方で、その課題を見た人の向き合い方は多様であっていいということも、これからは伝えていきたいと感じた2つの会だった。


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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