コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

JRIレビュー Vol.4, No.122 

新エネルギー分野サプライチェーン再編のトリレンマ -脱炭素/ 脱中国依存の両立は難しく、戦略的な取り組みが必要-

2025年03月18日 野木森稔


近年、中国製の新エネルギー(以下、新エネ)関連機器が世界市場で急速にシェアを拡大させている。中国国内の消費が低迷していることから中国企業は製品を輸出に振り向けており、いわゆる「デフレの輸出」が多くの国の市場を侵食し、関連産業の生産を押し下げるなどの悪影響をもたらしている。ドイツはその影響が顕著に表れた国であり、自動車産業が深刻な打撃を受けている。

こうした動きはドイツにとどまらず、今後、様々な国に拡大していく可能性がある。G7各国は一致して中国をけん制する姿勢を示し、欧州やカナダは中国製EVの関税引き上げなど、保護主義的な政策の実行を加速している。日本では、中国製EVの不人気やEV普及の停滞という特殊要因もあり、目立った動きはないが、今後同様の議論が活発化する可能性がある。米トランプ政権も保護主義政策を強めており、同時に環境関連政策の優先順位を引き下げることで、狙ったものではないが、新エネ分野での中国依存への懸念を低下させている。

多くの先進国は、新エネ産業を中国に依存しない形で自国産業を育成するなどサプライチェーン再編の必要性に迫られており、制裁関税など保護主義的な措置を取らざるを得ない状況にある。しかし、こうした対応は経済合理性を欠いており、新エネ分野でのサプライチェーン再編を加速させる要因になり得るかは予断を許さない。現在、中国が環境関連機器や重要鉱物を含む部材を安く供給しており、これが世界における新エネへの転換に向けた経済的な負担を軽くしているのが実情である。そもそもサプライチェーン再編は「脱中国依存」、「脱炭素」、「経済安定化」が目的となるが、世界が新エネへの転換のソースを中国に頼りきっている現状を踏まえると、これら三つの目的をすべて同時並行で進めることは現実的には不可能である。

新エネ分野のサプライチェーン再編を進めることで、各国政府はトリレンマに直面する。すなわち、(A)脱中国依存・脱炭素(経済安定の放棄)、(B)脱中国依存・経済安定化(脱炭素の放棄)、(C)脱炭素・経済安定化(脱中国依存の放棄)の組み合わせしか選べず、三つのうち一つを放棄せざるを得ない。多くの先進国が現在優先する脱中国依存と脱炭素を軸に重要鉱物のサプライチェーンを強引に再編することになれば、インフレ加速や財政悪化が生じ、経済が不安定化すると考えられる。

このように、新エネ分野のサプライチェーン再編ではトリレンマが生じるという問題を認識する必要がある。①財政リスクの許容(産業補助金拡大:経済合理性を伴う高付加価値分野に特化)、②中国リスクの許容(可能な範囲で中国と連携、チャイナ・プラス・ワンの加速)、③脱炭素遅延リスクの許容(新エネ製品製造における高基準のルール整備)を通じて、「脱中国依存」、「脱炭素」、「経済安定化」それぞれの目的のバランスを取るといった戦略により、この問題に対応する必要がある。わが国においても、新エネ分野のサプライチェーン再編を加速させるにはこうした戦略的な取り組みが重要と考えられる


(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ