JRIレビュー Vol.4,No.122 わが国のアニメ産業における供給面の課題 2025年03月04日 安井洋輔政府は、わが国のコンテンツ産業について、2033年に海外市場規模を20兆円にするという目標を掲げ、新たな成長のドライバーとして育成していくと宣言した。こうした取組により、アニメやゲームといったわが国が強みを持つコンテンツの輸出が持続的に拡大すれば、少子高齢化・人口減少により下押し圧力が強まっているわが国の潜在成長率を一定程度下支えできる。もっとも、コンテンツ産業の一角を占めるアニメ産業がこうした目標を達成するのは、現状では極めて困難である。アニメ制作者数は現状6,000人程度と言われるなか、政府目標を達成するにはその5倍の3万人程度まで拡大する必要があるが、アニメ制作者の定着率は低く、このままでは2030年にはむしろ減少してしまうことが予想される。アニメ制作者の定着率が低い背景には、他産業に比べて賃金水準が低いことがある。高いスキルを要する職業にもかかわらず、そのスキルが十分に評価されていない状況にあることから、アニメ制作会社は現行水準を大幅に上回る賃上げを実施し、彼らが生活の不安なく誇りを持って働き続けられる環境を整備する必要がある。しかし、多くのアニメ制作会社は賃上げ余力に乏しい。海外需要を牽引役にわが国のアニメの売上は急激に拡大しているものの、アニメ制作会社の収益はそれほど増えていない。実際、海外売上の配分状況をみると、アニメ制作会社に帰属する分は1割程度に過ぎず、9割はビデオメーカーや出版社、配給会社などの流通事業者に帰属している。アニメ制作における制作会社の貢献度は大きいにもかかわらず、ヒット作の収益などが相応に還元されないのは、制作会社が制作したアニメの著作権を保有できていないことが大きい。今後、海外売上が増加基調で推移するなか、アニメ制作者の賃上げ原資の確保に向けてアニメ制作会社が収益力を改善させるには、流通事業者に帰属している収益の一部をアニメ制作会社に還流させる仕組みを構築することが重要である。加えて、アニメ制作者が労働者として自らの賃上げに向けた交渉力を高めることも必要不可欠である。そのためには、フリーランスや自営業者が5~7割と言われるなか、産業別の労働組合を結成し、アニメ制作会社と職種別の最低賃金や適正な労働時間といった労働条件の改善に向けて集団取引を行うことが求められる。他方、海外売上というパイ自体を一層拡大させていくことも重要である。そのためには、海外プラットフォーマーの活用は不可欠ながら、一方で、わが国企業がアニメの著作権を確保できるようにするほか、アニメの地域別の視聴回数や視聴者の評価といった情報開示を促し、アニメの著作権者が従量的に適正な配分を得られるようにする必要がある。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)