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(コメント)欧州政治の混乱が日本に与える示唆―移民政策の失敗が国の分断を招来―

2025年02月25日 石川智久


2月 23 日、ドイツ連邦議会の総選挙が実施された。第一党は前回 2021 年 9 月の選挙で野党に転じたキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)であるが、今回の注目点は極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が第二党に躍進したことである。ドイツではナチスを生んだ反省から、長らく極右政党に対して警戒心が強かったが、それが様変わりしていることを示した。

ドイツで極右政党への支持が高まっている理由は「移民・難民問題」である。各種世論調査をみると、2021 年の総選挙時、ドイツで一番関心が高い政策課題は環境保護・気候変動であったが、今回は移民・難民問題がトップとなった。欧州では、経済情勢等への不満を移民や外国人労働者に向ける傾向が強くなっている。さらに、ドイツでは、移民・難民によるテロや犯罪等が発生していることも、人々の移民等に対する警戒心を高めている。そして極右政党は SNS 等を活用して、その恐怖心を煽ることで躍進している。さらに、移民・難民問題への反発はドイツだけでなく、2010 年代の欧州難民危機等を経て、これまで移民に寛容であった北欧諸国にも広がっており、一つの国にとどまらず、欧州全体で関心の的となっている。

人々の反発が強くなるなか、欧州各国は、移民について高度技能者を優先するなどの選択的な移民政策へのシフトのほか、難民認定の厳格化等の対応を進めており、かつてほど移民・難民について寛容ではなくなっている。しかしながら、国民の不満・不安は高まる一方であり、政策対応が遅きに失した感は否めない。かつて、ドイツのメルケル首相(当時)が 2004 年と 2010 年に「多文化主義は失敗した」と発言したが、その時点から改革を進めていれば、今のような状況に至らなかった可能性がある。

米国でも昨年の大統領選の争点の一つは移民問題であり、欧米の経験から、移民政策の失敗は国の分断を生みかねないことが示唆される。わが国でも人手不足が深刻化するなか外国人労働者への期待が高まっているが、外国人を単なる労働力として見るのではなく、その個々人の日本の生活への適合や社会との調和にまで思いを馳せる必要がある。欧米の失敗から学んで、国の分断や対立を生じさせないよう対策を進めることが重要である。


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