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JRIレビュー Vol.3, No.121

量的緩和と中央銀行の財務悪化が国家の財政運営に及ぼす影響 -英予算責任庁の分析とわが国への示唆-

2025年01月30日 河村小百合


海外では、コロナ危機を脱した直後から急激な金融引き締め策を講じてきた影響で、主要中央銀行の多くが現在、赤字や債務超過状態に陥っている。イギリスでは、独立財政機関である予算責任庁(OBR)が、中央銀行の財務悪化というこの問題を繰り返しとり上げ、イングランド銀行(BOE)の足許の財務状況という観点にとどまらず、国家の財政運営全体に対する長期的な影響という、より幅広い観点からの分析も行い、その結果を明らかにしている。

同国ではBOEが量的緩和(QE)に着手した当初から、正常化局面におけるリスク管理の在り方について、政府(財務省)とともにあらかじめ検討して必要な枠組みを構築し、日銀よりはるかに抑制的なレベルでQEを実施してきた。現在、BOEは計画的な正常化(量的引き締め=QT)に着々と取り組んでおり、2022年3月の着手以来、すでに資産の3割弱を縮減している。

BOEがQEを実施してきた資産買い入れファシリティ(APF)からは、利益を計上していた2022年10月までの間、財務省に累積で1,239億ポンド(約23.5兆円相当)の国庫納付が行われてきた。ところがその後、APFは赤字に転じ、現在では財務省からAPFに対して損失補填が実施されている。OBRの最新の分析によれば、こうしたAPFのライフタイム(通期)・コストは実に1,157億ポンド(約22兆円相当)に達すると見込まれている。

またOBRは、政府とBOEを合わせた統合政府ベースでのリスク分析も行っており、大規模なQE実施後には、統合ベースの負債の満期が極端に短期化された結果、金利リスクが増大したと警鐘を鳴らしている。

一方、わが国では、金融政策の正常化や財政再建への取り組みは遅れている。日銀は2024年末にようやく自らの財務見通しに関する試算結果を公表し、先行きの金融情勢次第では一定の財務リスクがあることを明らかにした。しかし、その試算の枠組みや前提の設定、開示の仕方には問題点が多く、BOE等の他の主要中銀の情報開示やリスク管理姿勢との差はなお大きい。

OBRの分析に倣えば、わが国は統合政府ベースでは負債の満期が極端な短期化状態に陥り、極めて大きな金利リスクを抱えている。不測の事態を回避するためには、金融政策の正常化に日銀、政府が足並みを揃えて取り組むとともに、本腰を入れた財政再建に一刻も早く着手して、毎年度の国債発行額を減額していくことが求められる。


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