RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.25,No.95 「新質生産力」は中国経済をけん引するか ─ EV 産業から見える中国の強さともろさ─ 2025年01月24日 三浦有史中国は、脱「中国依存」により経済をけん引する輸出品を欠く状況に陥りつつあるため、EV(電気自動車)、リチウムイオン電池、太陽光発電の3産業に代表される「新質生産力」に対する期待が高まっている。「新質生産力」は習近平政権が三中全会で掲げた「高質量経済発展」の基盤になるものと位置付けることができる。3産業は、中国の宿願である製造業の高付加価値化を体現する産業であり、半導体のようにアメリカの輸出規制によって発展が阻害されることがない、中国国内でサプライチェーンがほぼ完結する産業である。しかし、3産業が輸出に占める割合はまだ低く、その可能性が開花するか否かを判断できる段階にはない。中国は世界最大のEV市場であるが、今後も世界最大であり続け、中国EVメーカーがその主役である構造も変わらない。世界のEV市場における中国のプレゼンスが高まる理由としては、政府の強力なEV産業振興策による国内自動車市場の急速なEVシフトと、それに伴う中国EVメーカーの台頭がある。中国EVメーカーによる採算を度外視した苛烈な値下げ競争により、外資自動車メーカーは後退を余儀なくされている。中国のEU向けEV輸出は相殺関税によって鈍化すると見込まれることから、中国EVメーカーは今後ハンガリーやトルコにおける現地生産を強化する。東南アジアと中南米でも現地生産を拡大する。世界規模で進むEVシフトは、中国EVメーカーが海外市場に打って出る絶好の機会となっている。中国EVメーカーは、新興国市場への攻勢をますます強めると見られる。ただし、欧米市場への攻勢を断念したわけではない。関税引き上げ後も価格競争力を維持できることから、欧米市場における中国製EVの割合は低下するのではなく、わずかではあるが上昇するという見方もある。中国のEV産業はその勢いと強さが際立っているものの、①終わりの見えない採算を度外視した値下げ競争、②不確定要素が多い現地生産計画、③新興国における充電インフラ整備の遅れ、といった問題が表面化すると見込まれることから、その発展が約束されているわけではない。「新質生産力」の輸出はGXが進むのに伴い増えるものの、それに比例するかたちで新興国の対中貿易赤字も急速に拡大すると見込まれる。「新質生産力」は、先進国の技術に依存しない新しい製造業のかたちを示しているが、中国が新興国に対し巨額の貿易黒字を計上するという不都合な事実を浮かび上がらせ、中国の過剰生産能力を批判するアメリカに同調する新興国を増やすリスクを内包している。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)