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ビューポイント No.2024-035

(コメント)トランプの米国:歴史的観点と世界経済への影響 ―米国の政治は80年振りの逆回転。社会の分断・格差が続く一方、マクロ経済は堅調という「明と暗」入り混じる展開に―

2025年01月15日 石川智久


1 月 20 日にトランプ氏が第 47 代米国大統領に就任する。政権の枠組みも見えつつあるなか、第二期トランプ政権はどのようなものになるのか、歴史的な観点と世界経済への影響について私見を述べたい。

英国のエコノミスト誌は 2024 年 11 月 6 日付の記事で、米国と世界にとって「政治の新しい時代(a new political era)」という意味で、トランプ氏をフランクリン・ルーズベルト大統領以降、最も影響力のある大統領(the most
consequential American president since Franklin D. Roosevelt)であるとしている。多くの識者も第2期トランプ政権を「米国のターニングポイントである」としている。論拠は各人で異なるが、筆者からみて、第二期トランプ政権の歴史的な意味は、以下の2点と考える。

(1)米国政治が 80 年振りの逆回転を開始
ジョージ・フリードマン等の学術関係者は「米国の政治体制は約 80 年サイクルで変化し、2025 年は新たなサイクルに入る」と指摘している。具体的には、第一期が独立戦争(1775 年~1783 年)から南北戦争(1861~1865 年)、第二期が南北戦争から第二次世界大戦の終わり(1945 年)、そして第二次世界大戦が終わってから 80 年間が経過する 2025 年頃に第三期が終わる、という見解である。実際、トランプ次期大統領の政策を見ると、①関税強化策は 1930 年関税法(スムート・ホーリー関税法)を、②海外諸国や国際機関との非協力的姿勢は、モンロー主義に基づく米国の国際連盟不参加を、③移民の強制送還や国境への壁の建設は 20 世紀初頭の日本人移民排斥運動を、それぞれ彷彿とさせる。
これらは、米国がニューデール政策以前の立ち居振る舞いへと、歴史の歯車を逆回転させる大きな歴史的転換を予感させるものである。「内向きな米国」は長期化する可能性が大きい。

(2)深刻な分断・格差による混乱の一方で、マクロ経済は堅調
米国では教育水準、所得水準、性別等によって支持政党が大きく異なっている。また所得等によって居住地域も様々であり、社会的な統合が非常に難しい状況である。また、昨今のインフレと株高は所得格差を一層拡大させている。こうしたなか、米国の世論調査には有権者の 4 割が「内戦の可能性」を否定しないものがあるほか、内戦をテーマにした映画が話題になるなど、社会の分断が深刻化している。一方で、経済は堅調な状況が続いている。AI 関連などの新産業が生まれているのも事実であり、先進国の経済が全体的に伸び悩むなか、米国経済は際立って強さを増している。トランプ次期大統領が掲げる政策をみても、減税は富裕層を中心に消費を刺激するとみられる。また、IT を活用して政府の非効率性を是正するという政策は、うまくいけば米国政府の財政を効率化するだけなく、新たなイノベーションを生み出して、米国経済を一層強いものとする可能性がある。以上を総合すると、米国内では混乱・分断を抱え、著しい格差社会も解消されないものの、マクロ経済全体は堅調を維持するという、明と暗が入り混じった状況が続くと予想される。

次に世界経済への影響は、以下の3点が指摘できる
(1)サプライチェーンの大変革
まず世界経済への影響としては、トランプ関税によってグローバル・サプライチェーンが大きく変わることが予想される。当社の分析では、米国が対中関税を引き上げた場合、中国は景気減速とサプライチェーン再編の影響が重なり、大きく経済が落ち込む一方で、漁夫の利を得るのは、台湾やベトナムなど ASEAN 諸国になるとみられる。そうした構造変化を見据えたサプライチェーンの再構築が日本企業に求められる。

(2)米国のインフレが世界の為替市場等に影響、マクロ経済のリスクに
減税や関税引き上げはともに、インフレ促進的な政策であり、米国の金利を高止まりさせることが考えられる。そうなった場合、日本だけでなく、他のアジア諸国も金利に上昇圧力がかかりやすい状況となる。米国の高金利が続く場合には、ドル高の長期化が予想され、外貨準備が少ない国等で通貨危機につながる恐れもある。また、為替市場を通じて各国のマクロ経済に大きな影響を与える可能性も否定できない。

(3)環境政策、DEI について推進派と反対派の綱引きが過熱
環境政策などでは、米国の行動を発端として脱炭素を目指す動きに逆回転の圧力がかかることも考えられる。具体的には、①パリ協定といった国際連携からの離脱、②自動車等における環境規制の緩和、③EV 購入等にかかる税控除の縮小、などが考えられる。実際、一部の米国の企業や金融機関は環境問題に距離を置きつつある。一方で、EU では脱化石燃料への動きが依然として強く、欧米で方向性が食い違うことが懸念される。脱炭素を巡る思惑から原油市場のボラティリティが高くなり、それが世界経済のリスクとなる可能性にも注意する必要がある。
また、これまで世界的に高まっていた DEI(多様性、公平性、包摂性)を重視する動きについても、米国企業は見直しを進めている。具体的には、MEI(能力、優秀さ、知性)で評価すべきという動きがみられる。企業経営や株式市場における DEI の取り扱いについて、推進派と反対派の綱引きが過熱していくとみられる。

このようにみると、トランプ大統領の2期目は、米国だけでなく、世界経済に対して歴史的な構造変化を生じさせる可能性が大きい。米国への直接投資残高1位である日本は、世界で最も米国の影響を受ける国の一つといえる。「米国がくしゃみをすれば日本は風邪をひく」構図はかつてと変わらない。米国との付き合い方を検討するに当たっては、企業だけでなく政府も含むオールジャパンで対応していくことが不可欠である。

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