アジア・マンスリー 2025年1月号
中国自動車産業の海外展開にブレーキ
2024年12月26日 関辰一
中国の自動車産業は積極的に海外展開しており、コストパフォーマンスの良さを強みに海外売上高比率が急上昇している。しかし、今後の海外展開のペースは通商摩擦の問題などから鈍化すると見込まれる。
■急上昇する中国自動車産業の海外売上高比率
中国自動車産業は、長らく内需型産業として位置付けられていた。中国本土で上場している自動車企業 187 社の財務データを集計すると、2013 年時点での国内売上高は 1 兆2,107 億元、海外売上高は 743 億元、海外売上高の総売上高に対する比率(海外売上高比率)は 5.8%に過ぎなかった。同年の製造業上場企業3,597 社の海外売上高比率の平均値は 12.8%であり、自動車産業の海外売上高比率は製造業の平均値を大きく下回っていた。
しかし近年になって、中国自動車産業は国内販売の伸び悩みなどにより積極的に海外事業を展開するようになった。中国の新車登録台数は、家計部門の所得急増などにより 2003 年の434 万台から 2013 年の 2,031 万台へ大きく増加したものの、その後、雇用所得環境の悪化や政府によるエンジン車への規制などにより増勢が大きく鈍化し、2023 年に 2,453 万台にとどまるなど、中国の自動車市場は伸び悩んでいる。そこで、中国自動車産業は本格的に海外市場の開拓に乗り出すようになった。
その結果、2023 年の 187 社の国内売上高は 2 兆 5,052 億元へ比較的緩やかな増加にとどまる一方で、海外売上高が 7,696 億元へ大きく増加し、海外売上高比率は 23.5%へと急上昇している。これは、同年の製造業の海外売上高比率の平均値である 20.5%を上回る水準である。このように、中国の自動車産業は輸出型産業へと大きな構造転換を果たした。
中国汽車工業協会によると、中国の自動車輸出台数は 2013 年の 98 万台から 2023 年に 491 万台へ増加し、2024 年 1~10 月には前年同期比+23.8%と一段と増加している。このペースで増加すれば 2024 年の輸出台数は 550 万台となる見通しである。
輸出先をみると、ロシア・東欧や南米、中東、東南アジアが上位を占める。中国海関総署によると、1~10 月の自動車輸出は日米欧自動車メーカーが相次ぎ撤退したロシア向けが 96 万台(通関ベース、以下同じ)と最も多い。次に、最終的に米国で販売する車を含むメキシコ向けが 39 万台で続く。その後は、UAE が 26 万台、ベルギーが 25 万台、ブラジルが 22 万台、サウジアラビアが 22 万台、英国が 17 万台、豪州が 15 万台、フィリピンが 14 万台、トルコが 11 万台、タイが 10 万台、マレーシアが 10 万台となっている。
輸出の車種をみると、電気自動車(EV)が 190 万台と全体の 36.0%を占める。中国自動車産業が海外展開するうえで軒並みEVに力を入れていることを反映して、自動車輸出のEV比率は2023年通年の 34.0%から一段と上昇している。
■コストパフォーマンスの良さが中国企業の強み
主要企業の海外展開の動向をみると、上海汽車集団は 2019 年以降国内販売が頭打ちとなったため、海外事業展開を重視するようになった。2020 年頃から中国で開発・生産している EV に対して、2007 年に企業買収で獲得した MG ブランドを付けて輸出している。
英国発祥の MG ブランドの EV は、欧州メーカーの EV と同等の品質にもかかわらず価格がやや低く、コストパフォーマンスがよいと評価されている。世界自動車市場の調査をしているフォーイン社によると、2023 年の MG ブランドの販売台数は、英国やフランスを中心とした西欧 20カ国で 22 万台、メキシコで 6 万台、豪州で 6 万台弱であった。
上海汽車集団は、2023 年に海外で合計 60 万台の自動車を販売したが、インド、インドネシア、タイを中心とした海外での生産台数は 11 万台にとどまる。
コストパフォーマンスの高い EV を量産し、中国 EV 市場でシェアトップを握る BYD は、自社ブランドの EV を輸出している。2023 年に海外で合計 10 万台の自動車を販売した。ASEAN 諸国や中東、オセアニアといった通商問題のリスクが小さい地域が中心である。国別ランキングをみると、1 位はタイの 3 万台、2 位はイスラエルの 1.5 万台、3 位は豪州の 1.2 万台であった。なお、北米ではゼロ、西欧 20 カ国は 1.7 万台であった。2023 年時点で BYD の海外生産台数はゼロであったものの、東欧や中東、ASEAN 諸国などの地域へ投資し、海外生産を拡大すると発表している。
■今後、海外展開のペースは鈍化へ
中国の自動車産業は、コストパフォーマンスの良さを強みにロシア・東欧や東南アジア諸国など通商問題の懸念が小さい市場へ積極的に展開しているが、これらの地域の市場規模はさほど大きくない。
フォーイン社の「世界自動車統計年刊2024」によると、2023 年の世界 90 カ国の自動車販売台数は合計 8,833 万台であり、そのなかでロシアを含む中・東欧は 426 万台と全体の 5%に過ぎない。また、インドネシアは101 万台、マレーシアは 80 万台、タイは 78万台、フィリピンは 44 万台、ベトナムは 40万台と、ASEAN5 カ国の合計も 347 万台と、全体の 4%である。そこに複数の中国自動車企業が一斉に押し寄せ、いまのところ販売を大きく伸ばしているが、まもなく市場規模の天井、すなわち需給バランス悪化の問題にぶつかる可能性が高い。
一方で、世界の 18%を占める巨大な米国市場、15%を占める西欧 20 カ国では、通商摩擦の深刻化が中国企業の展開を阻む。中国市場は世界の 29%に達することを踏まえると、いま海外展開に力を入れている中国企業も早晩、国内市場を最優先とする戦略に回帰する見通しである。
総じてみれば、中国自動車産業の海外展開のペースは今後、欧米先進国との通商問題や新興国市場での需給バランスの悪化などから、大きく減速すると見込まれる。
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