JRIレビュー Vol.1,No.119 世界経済見通し 2024年12月25日 西岡慎一足元の世界経済は持ち直している。業種別ではサービス業が世界的に好調を維持している。その背景として、インフレ圧力の緩和で各国の個人消費が持ち直しており、小売や外食などの景況感が改善していることが挙げられる。さらに、デジタル化が進展していることも、情報通信など関連サービス業の業績を押し上げている。他方で、製造業の生産活動は二極化している。増産が続く新興国とは対照的に、先進国では日本や欧州を中心に減産基調にある。その一因として、中国で内需が弱く、輸出攻勢が強まっていることが挙げられる。中国の個人消費や建設投資が不振に陥っていることが、先進国の製品への需要低迷を招いている。さらに、中国企業の競争力が高まっていることも、先進国の減産につながっている。一方、これまでの対中デカップリング政策が奏功していることもあって、アメリカの生産活動は中国経済の影響を受けにくく、他の先進国に比べて堅調である。先行きの世界経済は回復力に乏しい展開が予想される。世界全体の経済成長率は2024年から2026年にかけて3%台前半にとどまる見通しである。デジタル関連やグリーン関連など成長が期待される分野がありながら、大国間の対立激化が景気に弾みがつかない主因となっている。アメリカではトランプ次期大統領による大規模減税の効果で2026年に景気が上振れる一方、対中関税引き上げで中国経済が減速する見通しである。アメリカではインフレ圧力が高まることから2025年の春にも利下げが打ち止められると予想する。これにより新興国などでは通貨安圧力が強まることから、利下げ幅が縮小し、景気回復ペースは鈍化すると見込む。上記標準シナリオに対するリスクとして先進国の保護主義政策への傾倒が挙げられる。先進国による産業支援策が過剰な生産能力を生むケースやアメリカ政府が多くの国・地域に対して関税を引き上げるケースなどが懸念される。その場合、中国の輸出攻勢が一段と強まるなど、世界的な過当競争が引き起こされることで製品価格が下落し、グローバル企業の収益悪化などを通じて、経済成長力が低下する可能性がある。過度な産業支援の結果、生産能力が過剰となる場合、その調整が成長力を低下させる可能性もある。政府債務の膨張も世界経済の下振れリスクとなる。財政の持続性に対する懸念が強まると、金利の上昇や緊縮財政への転換で景気が悪化する可能性がある。世界的に、経済安全保障、地政学的リスク、グリーン化、ポピュリズム勢力の台頭などで政府債務が膨らむ傾向にある。アメリカでは、大規模な減税の実施で財政赤字が大幅に拡大する可能性がある。欧州でもドイツやフランスの政治情勢が不安定化しており、政府予算を巡る先行き不透明感が強まっている。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)