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ビューポイント No.2024-029

(コメント)石破政権の幸福度指数に必要な視点―脱炭素に向けた「公正な移行」とEBPM の観点が重要―

2024年12月16日 石川智久


石破首相は就任直後の 10 月 4 日の所信表明演説で「国全体の経済成長のみならず、国民一人当たりのGDPの増加と、満足度、幸福度の向上を優先する経済の実現を目標」にするとした。国際的には、Well-being とそれを考慮した経済指標群の在り方を考える Beyond GDP への関心が高まるなか、それを踏まえた動きと言える。

一方で、Well-being を議論する際に、あまりわが国で注目されていない論点がある。それは脱炭素社会への移行に際する「負の影響」の最小化である。脱炭素社会への移行では、新たな技術が必要となる一方、不要となる技術や失われる仕事もあり、経済構造の変化に取り残される企業・労働者が増える懸念がある。こうした問題に対して国際的には、誰一人取り残さない“公正な移行(Just Transition)”が重要との共通認識がある。

例えば、Well-being について、ただ単に検証するだけでなく、省庁横断的な Well-being 予算を最初に策定したニュージーランドでは、2019 年度から政府予算を「Well-being Budget」と命名し、各年度予算において財政目標とともに Well-being目標が定められた。そして、2023 年度は5つの優先分野を決めて実行されたが、脱炭素社会における公正な移行はその一つとされた。

また、IMF 等の国際機関では、これまでの経済政策やイノベーションはマクロ経済の成長を生み出してきたが、これらによって打撃を受けた人々に対する支援を十分に行ってこなかったとの反省がみられる。脱炭素という取り組みと一人ひとりのwell-being 向上を関連させる動きは、今後世界的なトレンドとなる可能性がある。

わが国においては、官民合わせて 150 兆円規模の GX 投資等が議論されている。成長を追求する投資の観点はあるものの、雇用等への悪影響を最小化して、人々の幸福度を高めるという観点は極めて弱い。脱炭素政策が産業構造を変えることは当然であるものの、旧産業に属する人々が円滑に成長産業へ移行できるような政策等を実施することで、「誰一人取り残さない社会」の実現を目指すべきである。また、公正な移行においてはディーセントワーク(やりがいのある人間らしい仕事)を生み出すことが重視されている。その視点も重要である。

幸福度指数について計測・分析することは EBPM(証拠による政策立案)の観点からも重要である。その際には、産業別や職種別に幸福度を見ることで、公正な移行が実現できているのかを検証すべきである。

第6次環境基本計画では、「環境の保全を通じて、現在及び将来の国民一人一人の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上」を最上位の目的としている。幸福度指標もうまく活用することで、環境保全と人々の
Well-being が両立できているか検証することも重要である。

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