リサーチ・フォーカス No.2024-051 新興国・開発途上国から見た中国の位置付けの変化―低下するグローバルサウスにおける中国の求心力― 2024年12月04日 三浦有史中国の 2023 年の貿易黒字は 8,586 億ドルと、2010 年の 4.7 倍に増えた。貿易黒字拡大に貢献したのは、対米貿易ではなく、対新興国・開発途上国貿易である。中国は、世界貿易機関(WTO)加盟を契機に、多くの国の最大の貿易相手国となることで影響力を強めたものの、同時に多くの国が対中貿易赤字の拡大に悩まされることとなった。安価な中国製品の大量流入により、多くの新興国・開発途上国が、競争力の弱い国内産業の収益や雇用の悪化を懸念するようになった。さらに、過度な中国依存が中国政府による報復措置のツールとして利用されるリスクも高まった。中国輸入依存度が日本より高い国は 2023 年に 96 カ国あり、この問題は先進国だけでなく新興国・開発途上国にも共通する問題になっている。新興国・開発途上国の対中輸入が増加した理由のひとつとして、幅広い産業で過剰生産能力の問題が顕在化し、単価が低下した輸出品が増えたことがある。これは、失業や不景気などを貿易相手国に押しつける近隣窮乏化政策といえる。新興国・開発途上国の対中輸入が増加するもうひとつの理由として越境電子商取引(EC)の普及がある。輸出に占める越境 EC の割合は 8%を超える。中国政府は、越境EC 輸出の一層の伸長を期待するが、新興国・開発途上国政府は国内産業に与える悪影響を警戒しており、両者の軋轢は深まる可能性がある。新興国・開発途上国の中国に対する見方に影響を与えうるものとしては、対中債務の問題もある。新興国・開発途上国から見ると、中国は二国間公的債務の最大の貸し手であるが、中国国内には新興国・開発途上国の債務危機に責任を負うべきは先進国と民間セクターであるという論調が根強い。新興国・開発途上国で債務危機が表面化すれば、中国批判が再燃する可能性がある。習近平総書記が描くグローバルサウスのリーダーとしての中国像と、対中輸入や債務の増加に苦しむ新興国・開発途上国が抱いている中国に対するイメージは必ずしも一致しない。中国との経済関係の拡大に伴う新興国・開発途上国の苦悩に配慮しなければ、中国の求心力は習近平総書記が期待するほどには高まらないであろう。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)