JRIレビュー Vol.8,No.119
電力消費推計から考える将来の社会像-多極型社会にむけて地域分散型電力システムの構築を-
2024年11月27日 瀧口信一郎、藤山光雄
日本は2008年の1億2,808万人をピークに長期の人口減少期に突入している。国立社会保障・人口問題研究所の2023年の推計(中位推計)によれば、日本の人口は2050年にピークから18.4%減少し、1億469万人となる。
人口が減少すれば、電力消費は減少する。マクロの人口動態と経済動向をもとに、電力消費量を推計したところ、現状のトレンドが続いた場合、2050年には7,333億kWhと人口ピークの2008年の1兆218億kWhと比較して28.2%減少する。
一方、第7次エネルギー基本計画策定に向けて公表された各研究機関の電力消費推計では、2050年の電力消費は増加するとされる。推計では電力消費の増加につながる主な要因として三つが挙げられている。一つ目は施設内での化石燃料消費から電力消費への転換(電化)である。二つ目は再生可能エネルギーを用いた水素製造に係る電力消費である。三つ目は自動化、AI化に向けたデータセンターの大幅増設に伴う電力消費である。電化、水素、AIによる電力消費増は必ずしも電力消費全体の増加につながるとは言い切れない。問題は2050年の長期を見通した時、人口減少下の社会構造転換を織り込んでいないことである。
では、将来の社会構造転換として何を考えるべきか。東京への一極集中が進んだ日本では、東京の経済効率を高めるだけでなく、地方の経済を作り直すことが必要である。地方への投資を増やし、地方への人口移動を進め、多極型の地域構成を維持できれば、暮らしやすい地域での生活を実現し、人口減少の痛みを緩和し得る。20兆円の市場規模を持ち、150兆円とも言われる脱炭素投資の中心となる電力は、巨大なキャッシュフローによる社会・産業構造への影響が大きく、ともすれば都市への人口流入、日本の人口減少を加速することにもなりかねないため、社会・産業構造の転換にまで、視野を拡げて考える必要がある。
そのため、社会や産業といった電力のデマンド・ドリブン(需要起点)において地域分散型電力システムを電力政策の中核に組み入れることを提案したい。地域分散型電力システムは、地域と連携しやすいため、インフラ転換で、街づくり、国土インフラ、産業づくりに影響を与え、社会や産業への波及効果を生み出すことができる。地方では、水や木材資源が豊富であるところも多いため、水力発電、バイオマス発電を活用して、電気自動車、移動型蓄電池など需要側の電気設備と連携することで、日本の誇る自動車産業、電機産業の力を引き出すことができる。地域分散型電力システムの実現のために、新たな社会的な仕組みを地域内外のステークホルダーが協働して構築することになる。
経済成長のために電力消費を増やすという発想だけでなく、人口減少による電力消費減少の可能性も素直に受け止め、電力システムの在り方を考えていくことが大切である。
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