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JRIレビュー Vol.4,No.122

J-Startup にみる日本のスタートアップの現状と課題-定量分析を中心に-

2024年11月08日 岩崎薫里


日本のスタートアップを巡る課題として、数が依然として少ないこと、およびスケールアップ(大きく拡大)するケースが少ないこと、の2点を指摘できる。課題の解決に向けて、まずは現状を把握するためにスタートアップの定量分析を試みる。対象としたのは、政府のスタートアップ促進プログラム「J-Startup」に選定された246社である。これを全体、および大学発と大学発以外に分けて、さまざまな切り口から分析を試みる。

J-Startup企業の創業者の出身大学トップ3は東京大学、慶應義塾大学、京都大学であった。大学発の創業者が高学歴であるのは当然として、大学発以外でも半分近くが学士、3割が修士、1割が博士・医学士で占められる。20年ほど前であれば上場企業や官庁に就職し、そのまま社会人人生を全うしていたような人材がスタートアップの設立に乗り出していることが確認できる。

創業者がJ-Startup企業を設立したときの年齢は平均36歳であり、年齢階層別でも30歳代が半分を占める。大学発以外であれば、企業で実務経験を積んだ後に設立していることになる。J-Startup企業を設立する以前にも起業の経験のある、いわゆる連続起業家も3割に上る。連続起業家には成功した人ばかりでなく失敗した人も含まれるが、どちらであっても起業の経験やノウハウを蓄積し、J-Startup企業に選定されるほどのスタートアップを設立できたのであろう。一方、外国人創業者は9社10名ときわめて少ない。出身国は多様ながら、日本での留学・勤務経験をもつなど、日本と接点のある人ばかりである。

J-Startup企業に選定された後にエグジットした30社のうち、22社がIPO、残り8社がM&Aであった。M&Aに関し買収側企業をみると、業歴の比較的長い企業が事業環境の変化に対応するために新規事業に乗り出す、あるいは乗り出した新規事業を強化することを目的に買収に踏み切っているケースが多い。

過去に大学発スタートアップの設立が盛り上がった際には、事業経験のない研究者が経営者を兼ねることが多く、それが失敗の原因の一つであったと指摘されている。その学習効果が働いている模様であり、大学発のJ-Startup企業では研究者と経営者が分離されているケースが約半分まで広がっている。

以上を踏まえると、スタートアップの数を増やすためには、30歳代に焦点を絞ってスタートアップを設立しやすい環境を整えること、および外国人起業家を増やすことが有効である。留学生などの誘致が外国人起業家を増やすことにもなる。一方、スケールアップを図るためには、大学発スタートアップを一層促進することが重要になる。日本は長く「技術で勝って事業で負ける」といわれてきたが、経営人材の流入によって高い技術をもつ大学発スタートアップが事業でも勝つ素地が整いつつあるためである。M&Aにより経営から身を引いた創業者が再度起業し、蓄積した知恵やノウハウを活用し成功確率を高めている点を踏まえると、M&Aの促進もスケールアップを後押しすることになる。


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