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多様な総菜や弁当の宅配事業の拡大と、次なる異業種連携の可能性

2024年11月12日 泰平苑子


 もともと往訪や出張が多く、モバイル端末で仕事をしていた私は、新型コロナウイルス感染症の拡大にともなう、オフィス勤務から在宅ワークへの移行は、仕事環境としてあまり不便を感じなかった。新型コロナが落ち着いたあとは、子どもを授かったこともあり、産休育休を経た復職後も、家事育児と仕事の両立の観点から、在宅を基本とした勤務を続けている。そんな生活が数年続き、私は悩んでいた。そう、自身の昼食である。夕方の定時後は1歳児のお世話に追われるため、貴重なお昼の1時間休憩は効率的に使わなくてはならない。洗濯物を取り込み、夕食を仕込み、その他雑務をこなすと休憩時間は残り15分ということも。必然的に昼食は、具無しインスタントラーメン、納豆ご飯、いや納豆があれば御の字、白ご飯を有難く頂くだけのことも(私はご飯大好きなので、それでも良い)。ふと、朝ごはんも食パンとコーヒーで済ます私は、自身の食生活とその栄養バランスに不安を感じていた。そこで利用を始めたのが、レトルト総菜の宅配サービスだ。インスタントラーメンやご飯に1、2品追加するだけで、栄養バランスはもちろん、食事を楽しむ心の余裕も取り返すことができた。

 私のように通勤回数が減るとともに外食も減り、在宅での総菜の利用が増えた方は多いのではないか。厚生労働省では、国民の身体の状況、栄養摂取状況及び生活習慣の状況を明らかにし、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基礎資料として「国民健康・栄養調査」を実施している(※1)。令和6年8月に公表された調査結果では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響があった状況として「外食の利用が減った」と答えたのは男性が24.6%、女性が29.7%、「持ち帰りの弁当や総菜の利用が増えた」と答えたのは男性が7.5%、女性が8.0%と、少ないながら変化がみてとれる。新型コロナでの調査中断を経て再開された令和4年度以降は、感染症はおさまり外出意欲も高まっているが、フードデリバリーやミールキット、冷蔵総菜や冷凍弁当の宅配など多様性が増している中食市場をみると、2023年見込が12兆8,300億円(2019年比で117.7%)と市場が拡大していることも分かる(※2)

 フードデリバリーは新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う市場の急成長から、一転、2022年は前年比でマイナスとなったが、2023年以降は堅調な伸びに留まるとみられている(※3)。市場拡大が落ち着いた要因として、基本的に外食をそのまま自宅に届ける食事スタイルであるフードデリバリーが、毎日の食事習慣となるのは難しく、少子高齢化で人口減少が進むわが国では、ある程度、市場規模は頭打ちになるのではないだろうか。一方、冷蔵や冷凍で提供される総菜や弁当の宅配事業は、多様なニーズに合わせてサービスを展開しており、こちらは食生活に入り込んでいる。少子高齢化や単身世帯の増加に伴い、食材を無駄にしたくない、調理の手間をかけたくない、食べる量に合わせて作る量はそこまで多くないなど、利用ニーズは高いと言える。そのほか、大人と味付け等が異なる幼児食、嚙みやすく飲み込みやすい高齢者向けの食事、妊活中や妊娠中に必要な葉酸・鉄がとれる食事、筋トレ・ボディメイク・ダイエットに適した食事、従業員の福利厚生・健康管理としての社食、健康を気遣う方や病気の方向けの塩分や糖質を制限した食事など、実に多様なニーズに合わせた食事があり、自分の生活に合わせたサービスが見つかりそうだ。
 
 共働き世帯が一般的なフランスでは夕食に冷凍食品をうまく活用しており、都会に単身で出てくる人が多い東南アジアでは三食とも外食で済ますことも珍しくない。日本では昔から冷凍食品はお弁当の一品には良いが、食事に活用するのは、手間をかけていない罪悪感、栄養面の不安などから、少し嫌えんされていたような気がする。しかし、少子高齢化や単身世帯、共働き世帯の増加、新型コロナウイルス感染症をふまえた新しい生活様式のなかで、わが国でも家庭内で調理した内食だけでなく、積極的な冷凍食品や冷蔵総菜などの中食利用、朝食も含む手軽な外食利用はより身近になっていくだろう。

 また、家庭内の食事に企業が宅配等で定期的に関わるようになり、家族情報・健康志向や好みの把握などパーソナルな情報が蓄積されることで、食事の提供から次のフェーズも考えられる。弁当宅配とスポーツジムとの連携(筋トレとは相性が良い)は始まっているが、妊活中や妊娠中の方との接点を持つ産婦人科との連携、アスリートとの接点を持つプロスポーツクラブや選手強化活動を行う事業との連携、そのほか食事とパフォーマンスに相関が見られるような取組みは、弁当や総菜の宅配事業との連携で新しいソリューションも出てくるのではないか。この連携を橋渡しし、ビジネスを拡大するのは、食生活をふまえた健康管理アプリなどITを活用したビジネスモデルだろう。中食市場の拡大により、食生活の変化が見られる今、新しいビジネスチャンスも多いと考えている。

(※1) 厚生労働省 令和4年「国民健康・栄養調査」の結果
(※2) 富士経済グループ 2023年12月 「新型コロナ流行や価格改定の影響で変化がみられる内食、外食、中食の国内市場とその将来性を調査」
(※3) 株式会社SVPジャパン「フードデリバリー-国内市場の現状と将来展望」


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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