リサーチ・アイ No.2024-067 基礎控除引き上げ策、「年収の壁」4分の1しか崩れず ― 労働供給30万人分の増加に過ぎず、「社会保険の壁」が障害に ― 2024年11月07日 藤本一輝国民民主党は、基礎控除を103万円から178万円に引き上げる政策を提案。これにより、同党は「年収の壁」が解消され、労働供給が増加すると主張。もっとも、「年収の壁」を本格的に崩すためには、社会保険制度の改革が不可欠。「年収の壁」は就業調整を通じて年間120万人分にあたる非正規雇用を喪失させるインパクト。また、日本スーパーマーケット協会のアンケート調査によると、就業調整を実施しているパート労働者のうち、年収を103万円以下に抑えている労働者は全体の8割を占める状況。もっとも、試算によれば、仮に所得税・住民税の基礎控除を75万円引き上げたとしても、新たに生み出される労働力は30万人分と、「年収の壁」による労働力の喪失を4分の1取り戻すに過ぎず。基礎控除引き上げ効果が限定的にとどまる理由は、「年収の壁」が税制だけでなく年金や健康保険などの社会保険制度にも起因するため。税制上の壁が解消されたとしても、年収が約106万円や130万円といった「社会保険の壁」を超える場合、非正規雇用者は社会保険への加入義務が発生し、保険料を負担する必要。年収を103万円以下に抑えている労働者の多くは基礎控除が引き上げられても「社会保険の壁」に直面する公算が大。国民民主党などの一部政党は、社会保険制度における配偶者優遇制度の見直しなどを公約として提示。わが国では労働力人口が年間23万人(2023年)しか増加しておらず、人手不足が深刻化。労働供給の拡大が大きな課題であるだけに、関連制度改革に向けた政策論議の活性化に期待。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)