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(コメント) トランプ再選で不安定化する世界景気 ―わが国でも中国変調による悪影響や資本財セクターへの打撃に注意―
2024年11月07日 西岡慎一
米国ではトランプ氏が大統領に返り咲いた。共和党の議会選勝利で「トリプルレッド」が実現し、大統領の政策運営が容易になる可能性も高まっている。トランプ氏が掲げる政策には大胆な内容も多く、今後の世界景気が不安化する可能性に注意する必要がある。
トランプ政策には、供給を阻害する政策と需要を押し上げる政策がともに盛り込まれている。そのため、米国ではインフレが進むもとで、景気は上下双方に揺れ動く展開が予想される。仮に、トランプ氏が就任早々に中国に圧力をかけ、対中関税を60%に引き上げる場合、米国では来年の経済成長率が1%台後半に減速する可能性がある。一方、トランプ氏は年間で約1兆ドルにも及ぶ多額の減税を公約に掲げる。仮に、この政策が再来年度の予算審議の中で可決されれば、成長率は2026 年に2%台半ばへ浮揚しうる。この間、インフレ率は3%近くに高止まり、FRBによる利下げは早々に打ち止められよう。
トランプ政策が世界経済に及ぼす影響も大きい。なかでも中国は対中関税引き上げなどの圧迫を受け、▲1%ポイントにも及ぶ成長率の下押し圧力を受ける。内需不振に喘ぐ中国経済にとって、米国への販路縮小はかなりの痛手となる。さらにトランプ氏は世界一律に関税を課す「ユニバーサル・ベースライン関税」の創設も打ち出している。その実現を巡って不透明感が高まる場合、世界的に設備投資などが手控えられ、グローバルな規模で株価や景気が押し下げられよう。
わが国でも主に以下3点の経路を通じて、トランプ政策の影響が波及する。
第1に、中国経済の変調を通じた影響である。近年の中国経済の不調で、対中輸出や在中現地法人の売り上げがすでに落ち込んでおり、わが国製造業の不振に直結している。インバウンド需要の面でも、中国人訪日客の回復は道半ばであり、一部の地方都市ではかつてのような恩恵が及んでいない。中国経済が悪化するとこうした傾向に拍車がかかる。
第2に、わが国資本財セクターの業績悪化である。トランプ氏が関税引き上げに固執するなど政策の予見可能性が低下する場合、世界的に設備投資が手控えられ、わが国でも産業機械や輸送機械といった資本財セクターの需要減少につながる。資本財セクターはわが国の基幹産業であり、株式市場でのプレゼンスも大きいものの、近年は、国際競争力が低下傾向にある。トランプ政策による悪影響を緩和するためにも、関連企業においては、米中以外の国・地域での事業展開を積極化するなど、リスク分散を適切に図ることが重要となろう。
第3に、円安である。米国金利の上昇で円安が進行する場合、グローバル企業では増益圧力が生じる一方、中小零細企業では輸入コスト増を通じて減益圧力が生じる。こうしたコストを価格転嫁や生産性向上で吸収できなければ、企業は賃下げで
減益圧力を回避する可能性がある。コロナ禍以降、中小零細企業では、労働生産性の改善が大企業に比べて限定的で、賃上げ余力が縮小している。円安で減益圧力を受けやすい企業に従事する労働者は経済全体の6割以上にのぼる。中小零細企業の賃上げが「賃金・物価の好循環」のカギを握るだけに、一段の円安が好循環を阻害する恐れがある。
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