ビューポイント No.2024-020 (コメント)年収の壁を巡る議論のポイント 2024年11月05日 石川智久衆議院選挙後、いわゆる「年収の壁」をめぐる議論が白熱している。賃上げが続き、最低賃金の引き上げも議論されているなか、年収の壁が放置されれば、今よりも少ない労働時間で年収が壁に達する。その結果、「働き控え」が増えて、人手不足が深刻化し、経済全体にも悪影響を及ぼす。その観点からは改革の必要性があることは論を俟たないが、一方で、考えなければならないポイントが複数ある。年収の壁問題は複数あり、税金だけでなく、社会保険料が発生する壁もある。つまり「基礎控除の引き上げ」だけでは解決せず、社会保険料と年収の関係にもメスを入れる必要がある。手取りの段差が生じない、「働き方に中立な社会保険制度」の構築を急ぐべきである。例えば、週労働時間 20 時間未満の短時間労働者を被用者保険の適用除外にしている規定を見直すなど、被用者保険の適用拡大も検討すべきである。また、すべての人々を対象に基礎控除を 75 万円引き上げた場合には、8 兆円近い税収減が指摘されるほか、高所得者ほど減税額が多くなるという逆進性が発生する。高所得者に減税をしても、消費性向が低いため、消費が刺激されず、結果として、「財政悪化と景気停滞だけが残った」となるリスクもある。基礎控除引き上げを行うのであれば、低所得者層への恩恵に重点を置くなど、財政再建に配慮しつつ、本当の意味で経済的困窮に陥っている低所得者救済を考えた対応にすべきである。また基礎控除の引き上げ幅についても議論が必要であろう。今回の選挙結果を振り返ると、勤労世代の声に応えようとする政党が躍進し、高齢者世代を重視してきた既存政党は比例代表の得票数があまり増えておらず、むしろ、減らしたところもある。今回の選挙結果を踏まえて、現役世代や子育て世代に配慮した未来志向の政策が進むことを期待する。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)