リサーチ・フォーカス No.2024-043 中国自動車産業から見たグローバル市場―種類別・国別輸出から読み解く自動車輸出の現状と今後― 2024年11月05日 三浦有史中国を自動車輸出世界一に押し上げたのは EV ではなく、ガソリンやディーゼルオイルをシリンダー内で燃焼させる ICE(internal combustion engine: ICE)車である。自動車輸出が最も多いロシア・中央アジア向けは ICE 車が主体となっている。その一方、欧州と東南アジアは EV の割合が高い。2023 年の中国の ICE 車を含む自動車輸出は輸出全体の 3.0%を占め、自動車は主要輸出品として台頭しつつあるように見える。しかし、中国の自動車輸出の伸び率は、ICE 車と EV ともに数量ベースと金額ベースのいずれを見ても急速に鈍化している。EV の輸出鈍化は、欧州向け BEV の輸出停滞に起因するものである。BEV 輸出の伸び率は 2024 年通年で前年比マイナスに転じ、2025 年はマイナス幅が一段と拡大する可能性が高い。ICE 車の輸出鈍化は、輸出の 3 割を占める最大の輸出先であるロシア向け輸出の伸び率が低下したこと、第 2 の輸出先であるメキシコ向け輸出の伸び率がマイナスに転じたことが大きい。2025 年の ICE 車輸出は、①ロシア政府が中国 EV メーカーの投資を促すため、輸入車のスクラップ料を 2 倍に引き上げるとしていること 、②2024 年 1~7 月に 4 位にランクインしたトルコ向け輸出は、関税引き上げ前の駆け込み輸出であることから 、伸び率が鈍化すると見込まれる。中国の自動車輸出は、規模の大きい市場へのアクセスが制限されているため、長期的に見ても輸出が頭打ちになる可能性が高い。中国が自動車輸出だけでなく、自動車販売台数でも世界一となるためには、市場規模が大きい国に対する輸出を増やしていくことが不可欠であるが、いずれの国を見ても輸出環境が改善する見込みはない。中国の EV 産業は、今後輸出から現地生産へと、生産体制が大きく変化する。輸出の伸び率が鈍化しても、輸出が現地生産に替わり、海外販売台数が伸びていけば、中国 EV 産業にとって問題はない。しかし、中国商務部は、中国 EV メーカーに対し海外に工場を建設する際には、中核技術を国内に残し、輸出した部品を組み立てるノックダウン方式による生産にとどめるべきと要請しており、中国 EV 産業の現地生産が順調に進むかは不確定要素が多い。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)