アジア・マンスリー 2024年11月号
中国大企業の債務状況改善と競争力向上
2024年10月28日 関辰一
中国のはん用・生産用・業務用機械製造業や電気自動車を中心とした自動車産業では、大企業の債務状況に改善がみられる。これらの中国企業は、競争力を高め、付加価値額を大きく増やしている。
■はん用・生産用・業務用機械製造業の債務状況が改善
中国企業の債務状況は、全体でみると依然として過剰である。国際決済銀行(BIS)によると、中国の非金融企業部門の債務残高の対GDP比率は2023年末に138%と、日本(115%)、米国(77%)、ドイツ(70%)を大きく上回る。
しかし、企業が債務を増やしたが、事業活動によって生み出された付加価値額がより速いペースで増加し、その結果、債務比率が改善している産業もある。例えば、はん用・生産用・業務用機械製造業や電気自動車(EV)を中心とした自動車産業、情報通信機器・電子部品・デバイス製造業がある。
はん用・生産用・業務用機械製造業では、上場企業713社の債務残高の合計金額が2013年の2,557億元から2023年に6,790億元へ増加したものの、付加価値額が同時期に1,283億元から5,075億元へ増加した。その結果、債務比率は
199%から134%へ改善した。
この背景として、それらの産業製品の中国市場の拡大と品質(中国企業の競争力)向上による販売急増が指摘できる。例えば、中国の産業用ロボットの年間設置台数は2012年の2万2,987台から2022年に29万258台へ急増した。国際ロボット連盟(IFR)によると、2022年の世界第2位である日本の年間設置台数は5万413台、第3位の米国は3万9,576台、第4位の韓国は3万1,716台と、中国は世界で群を抜く最大の市場となっている。
以前は輸入と外資企業による現地生産が多かった中国市場への製品供給において、中国企業が技術面でキャッチアップしてきたことで、その競争力が着実に高まっている。調査会社エム・アイ・アール社(MIR)によると、中国の産業用ロボット市場の国産ブランドのシェアは2015年の18%から2023年に45%へ上昇した。
今後を展望すると、はん用・生産用・業務用機械製造業企業の付加価値額は、国内外における生産性向上に向けた設備投資拡大や中国企業の技術力向上により一段と増加すると見込まれる。2023年1月に中国政府から発表された「ロボット+(プラス)」計画では、2025年に製造業労働者1万人当たりの稼働のロボット台数を2020年(246台/万人)から2倍へ増やすことを目標としている。中国企業が積極的な研究開発投資を継続するなか、国産ブランドのシェアは拡大を続ける見通しである。
■自動車産業はEVがけん引役となり債務状況が改善
自動車産業では、官民一体でEVの生産能力を急激に増やしたものの、2019年から2020年にかけて市場規模が伸び悩んだことで、債務過剰感が一時的に強まった。これをBYD、広州汽車集団、上海汽車集団の3社の財務データで確認すると、3社の債務残高の合計金額は2013年の565億元から2019年に1,724億元へ大きく増加した。一方で付加価値額は、2013年の598億元から2019年に1,279億元へ増加したに過ぎない。この結果、債務比率は2013年の95%から
2019年に135%へ跳ね上がった。
中国では、EVの販売台数が2013年の1万4,000台から2019年に97万台へ増加したものの、97万台という水準は当初の期待を大きく下回るものであった。2019年1月時点で中国汽車工業協会は、EVとプラグインハイブリッド車(PHV)、それに水素を燃料とする燃料電池車を合わせた「新エネルギー車」の2019年の販売台数を160万台と予測していた 。しかし、その年の新エネルギー車の販売台数は120万台と予測に対して25%下回った。
この時期に中国でEV販売台数が伸び悩んだ背景として、EVのエンジン車に対する競争力が低かったことが指摘できる。例えば、航続可能な距離や充電に必要な時間を左右するバッテリーの性能に問題があり、かつ価格が高すぎた。多くの消費者は、遠出した際に電池切れで出張や旅行の計画が破綻することを心配した。バッテリー価格の高さは、エンジン車に対する価格競争力の弱さに直結した。充電スタンドも大きな問題であり、設置が不十分かつ不均等であった。そもそも、個人が自宅で充電スタンドを新設するにあたり集合住宅のほかの住民の合意を得ることも困難であった。また、自動車保険など関連サービスも黎明期であった。
もっとも、官民が協力して、EVにまつわる様々な問題を一つ一つ改善していく一方、エンジン車への規制が強まったことで、2021年からEVの販売が急増した。EVの販売台数は、2020年の112万台から2023年には669万台へと急拡大した。2024年1~9月のEVの販売台数は前年比+11.3%であり、このペースで増加すれば2024年通年では740万台に達する見込みである。
また、中国汽車工業協会によると、中国の乗用車市場における国産ブランドのシェアは、2020年9月の38%から2024年9月に68%へ上昇した。中国ブランドのシェアの上昇は、中国自動車企業の競争力向上を示すものである。
このような中国市場の拡大や中国企業の競争力向上を受けて、主要な中国自動車企業の付加価値額は大きく増加し、債務比率が低下した。主要3社の債務残高は2023年に2,008億元へ増加した一方で、付加価値額は2023年に2,335億元へ増加し、債務比率は2023年に86%へ低下した。
BYD、広州汽車集団、上海汽車集団の3社の付加価値額は、上場している中国の自動車メーカー全186社の4割に達する。2023年のEV販売台数をみると、BYD、広州汽車集団傘下のEVブランドであるアイオン、上海汽車集団傘下のウーリンは、それぞれ287万台、48万台、47万台であった。2023年の世界EV販売台数のランキングをみると、BYDが全体の21.0%、テスラが13.2%、BMWが3.7%、アイオン、フォルクスワーゲン、ウーリンがともに3.5%と続く。
現在、中国で債務状況が改善している産業には、このように高い競争力を有する中国企業の存在がある。諸外国の競合メーカーは、こうした中国企業と今後どのように向き合うのか、対応を迫られている。
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