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【人的資本経営ステークホルダー調査 ―「対話」としての人的資本開示―(2024年度)】
第3回 投資家インタビュー

2024年10月25日 國澤勇人、植原健吾


1.はじめに
 「日本総研 人的資本経営ステークホルダー調査」第3回となる本稿では、「投資家インタビュー」について紹介する。なお、掲載回と各調査との関係は以下のとおりである。

<図表1> 日本総研 人的資本経営ステークホルダー調査の構成
 第1回調査の背景・概要
 第2回人的資本の投資対効果の開示に関する実態調査
 第3回(本稿)投資家インタビュー
 第4回人的資本情報 認知・利活用状況調査(前半)
 第5回人的資本情報 認知・利活用状況調査(後半)

 この「投資家インタビュー」は、企業活動において代表的な対話の相手である投資家に対して、「どのような観点で人的資本情報を見ているのか」等をインタビューしたものである。人的資本経営は「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」 であり、企業価値向上を考える上で投資家の目線は欠かせない。この点、人的資本経営に関する企業活動の実態や企業の意向に関する調査は既に多数実施されているが、投資家の声を確認した調査は本稿執筆時点において必ずしも多くない。今回は、投資家の代表である資産運用会社数社にインタビューを行う形で、人的資本情報について特に重視している内容やその背景を確認した。



2.インタビュー結果

① 非財務情報の中で人的資本情報はどの程度重要か



 人的資本が最重要であるとの回答を得られたわけではないものの、総じて投資家は、他の非財務情報と比較して同等もしくは最も重要であると判断していることがわかる。

② 人的資本情報の何を見ているか



 インタビューでは、総じて多様な回答が得られたが、いずれの投資家も共通して「必要な人材像・スキル」「エンゲージメント」「多様性」を挙げていた。ここでは、「必要な人材像・スキル」と「多様性」について言及したい。
 第一の「必要な人材像・スキル」について、筆者はこの「必要な人材像・スキル」こそが、人的資本経営が重視している「経営戦略と連動した人材戦略」を示すものであり、ゆえに投資家も重要視していると考える。
 図表3の左側は、現在の事業像とそれらの事業を実現する上で必要となる人材の種類と量(人材ポートフォリオ)を示している。右側上部は、将来の経営戦略・事業構成に基づく事業像を示しており、企業は、将来の事業を推進する上で人材群の質と量を特定する必要がある。その上で、将来の人材群の質と量と現在の人材群の質と量との差を明らかにし、将来の人材群の実現に向けて採用・育成・配置転換・環境整備等の施策を計画・実施する。逆に言えば、このような人材施策を計画・実施しなければ、将来の事業・経営戦略を実現できないことになる。その意味で、投資家が経営戦略の実現に向けた人材像や社員のスキルを確認するのは当然であろう。



 第二に、「多様性」については、ストーリーをもってその必要性を語る必要があると考える。今回のインタビューでは、その理由の一つとして「イノベーションを起こす可能性を確認する」ことが挙げられていた。もちろん、理由は各社各様であろうが、昨今、「社会的な要請に応じて、多様性を確保する。そしてその現状を開示する。」というように、社会的な要請のみに理由を求める企業が多い。なぜ多様性を確保するのか、多様性を確保することによって何が変わるのか。その理由を投資家との対話において示す必要があろう。

③ 人的資本の投資対効果を測ることは必要か



 本稿第2回において、投資収益性と人的資本投資との連動性を開示している企業が少数であることを示した。これは、投資と効果の因果関係を示すことが難しいことを表している。一方、今回のインタビューでは、投資対効果の開示を投資家が求めていることが窺えた。現時点では、実務的にも学術的にも道半ばの研究領域であると考えているが、まずはプライム上場企業等を中心として、検討しなければならない課題であろう。

 今回のインタビューでは、人的資本経営をめぐるこれまでの議論と大きく相違する見解はなかったが、これまでの議論の妥当性と今後の課題感を確認することができた。各企業においても、積極的な情報開示と投資家との積極的な対話は、人的資本経営のあり方を検証する有益な機会になるものと思われる。

 次回以降(第4回・第5回)は、投資家以外のステークホルダーが人的資本情報をどのように捉えているのかを調査した「人的資本情報 認知・利活用状況調査」について、その結果を紹介する。

以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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