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ビューポイント No.2024-018

ドイツ自動車産業の危機に見る戦略的示唆

2024年10月10日 福田直之野木森稔


世界の電気自動車(EV)市場では、中国メーカーがシェアを拡大させており、欧州と中国市場で劣勢が続く独フォルクスワーゲン(VW)は創業以来初の自国工場閉鎖を迫られている。世界の新エネルギー関連製品が中国企業中心のサプライチェーン(供給網)に大きく依存するなか、西側諸国が目指す脱炭素と脱中国依存の両立は非常に困難である。ドイツ自動車産業は欧州と中国の両市場に依存しており、そこでの中国とのEV競争激化と同国経済の停滞、EUによる中国生産車への高関税賦課方針が大きな誤算となった。

一方、日本メーカーは、①パワートレインの多様性、②販売先の多様性、③主戦場である日米市場の規制の緩やかさ、を要因として好業績を維持しており、ドイツメーカーの轍を踏む懸念は小さい。とりわけ、EV化を急いだVWと異なり、排出削減に貢献できるハイブリッド車(HV)をラインナップに持ち、パワートレインが多様であることが、むしろ競争力のあるEV開発に投資できる余力を作り出している。また、日本メーカーは、VWの主要販売先で事業環境が悪化している欧州と中国のほかに、日本と北米を主要市場としているため、分散効果によるレジリエンスが高い。

国際エネルギー機関(IEA)のシナリオでは、世界の自動車販売に占めるEVの割合が2030 年に 40%、35 年には 50%以上に達すると予測している。ただし現状は、重要鉱物(Critical Minerals)が使われる電池のコスト高、一部の国における購入インセンティブの段階的廃止、充電インフラの不備、さらには米欧による中国製EVに対する関税賦課により、想定されたEVの普及ペースに疑念が生じている。それでも脱炭素の重要性は増すばかりで、EVが多くの国で切り札となる点に変わりはない。技術開発やインフラ整備が進めば、世界で普及ペースが加速する可能性は十分にある。メーカー各社も競争力のあるEV開発の手綱を緩めることはないだろう。

日本メーカーの優位性を支えるバランスの良い販売市場構成を守るには、中国と東南アジアで勢力を伸ばす中国EVメーカーと競い続ける必要があり、そのためにはパワートレインの中で弱かったEVのラインナップを強化する必要がある。同時に、中国が支配的な供給力を持つ中核部品の電池とその原材料である重要鉱物について、中国依存を軽減する体制づくり、ESGの観点で低基準の中国製品を市場から退出させるような高基準のルール作り、などにも取り組んでいく必要があろう。

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