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労働者協同組合を通じたシニアの活躍

2024年10月08日 小島明子


 2022年10月1日に労働者協同組合法(※1)が施行され、既に約100(※2)近くの団体の労働者協同組合が設立された。介護や子育て支援等を中心とした事業から、終活支援、音楽イベントの企画、造園業など多種多様な事業内容の労働者協同組合が設立されている。労働者協同組合の担い手も幅広く、協同労働という働き方を長年率先して行ってきた関係団体やフリーランスに加えて、シニア人材が立ち上げていることも特徴的である。

 最近では、政府としても労働者協同組合をシニア活躍の1つとして位置づけている。内閣府「高齢社会対策大綱」(令和6年9月13日)では、「高齢期のニーズに応じた多様な就業等の機会の提供」として、労働者協同組合の活用により、地域における多様なニーズに応じ、高齢者が自ら働く場を創出する取組を促進することが掲げられた。
 また、厚生労働省「雇用政策研究会報告書」(2024年8月)でも、シニア世代自らが立ち上げた「労働者協同組合上田」が取り上げられた。シニア世代が、地域社会が抱える課題を自らの経験を活かして解決につなげようとする取組みは、人口減少により地域の担い手が不足しつつある中で、重要性が高まっていることが述べられている。

 一方、労働者協同組合は、今後、シニアの新たな活躍の場として期待はされているものの、今まで企業で勤めてきた後に退職した従業員が、定年後にすぐに立ち上げるのは容易ではないと想像する。そのため、より多くのシニアが労働者協同組合で活躍しやすい環境づくりの観点から、企業が労働者協同組合(あるいは労働者協同組合という法人格を有していなくても、協同労働を実現している活動団体も含む)の体験機会をミドルシニア従業員に提供することを提案したい。

 一部の企業では、従業員に社外の経験を提供するため、越境学習プログラムを設けるところも出てきている。労働者協同組合での体験機会を提供することは、従業員にとっての副業・兼業やセカンドキャリアの準備といった多様なキャリアの選択肢を増やすことにもつながる。
 協同労働の現場では、地域課題の解決に向けて、組合員同士で合意形成をしながら、新たな事業を起こし、継続的な事業運営を行うといった主体性が求められる。主体性や傾聴力、個々人の特性を踏まえた上での協力関係の築き方、地域課題に対する問題意識などを学ぶことは、ミドルシニアの従業員にとって新たな刺激になるだろう。

 2025年4月には、「65歳までの雇用継続」に関する経過措置が終了し、企業は、「65歳までの定年引き上げ」「定年制の廃止」「65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入」のいずれかを導入することが求められる。多くの企業では、シニアの活躍に関する施策の検討が進められているが、一方で労働者協同組合については企業内での認知が進んでいないことを筆者自身も感じている。労働者協同組合が、シニアの多様な働き方の有効な選択肢として社会で認知が広がることを期待したい。

(※1) 参考文献「協同労働入門」(経営書院) 株式会社日本総合研究所 小島明子・弁護士 福田隆行(共著)
同法は、「協同労働」の理念を持つ団体のうち、同法の要件を満たす団体を「労働者協同組合」として法人格を与えると共に、その設立、管理等の必要事項を定める法律である。「協同労働」とは、働く人が自ら出資をし、事業の運営に関わりつつ、事業に従事するという働き方を指す。協同労働に関わる人達(組合員)は、組合を組織し、組合の「出資」「経営」「労働」のすべてを担うことになる。
(※2) 厚生労働省ホームページ


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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