RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.24,No.94 中国の民営企業と外資企業の行方 ─「総体国家安全観」に対する警戒感の高まり─ 2024年09月13日 三浦有史中国の民営企業は、改革開放政策により著しい発展を遂げた。民営企業を取り巻く環境は習近平政権下で悪化し、民営企業はもはや不要だという「民営離場論」が注目を集めた。民営企業の投資減退が経済の足枷になることを懸念した同政権は、「民営経済31条」を公布し、民営企業を「做強做優做大」(より強く、より良く、より大きく)するとして、民営企業振興策を「格上げ」した。中国は、積極的な外資導入政策により「世界の工場」としての地位を築いた。外資導入政策は、2000年代半ばに総花的導入から選択的導入に変わったものの、内外の環境の変化に伴う外国直接投資の減少に危機感を強めた習近平政権は、出資比率制限の撤廃に踏み込むなど、外資導入政策を再転換し、開放政策の加速を図った。民営企業は、「民営経済31条」が公布された後でも6割が投資に消極的である。背景には、中国経済の成長性に対する懸念の高まりと、政府に対する不信感が拭いきれていないことがある。トップ100社の株式時価総額に占める民営企業の割合が大幅に低下したように、民営企業に対する市場の期待も低下した。企業と市場はいずれも、「做強做優做大」を掲げた習近平政権の民営企業振興策の本気度を疑っている。欧州、アメリカ、日本では、投資先としての中国の優先順位が低下している。背景には、中国経済の成長性に対する懸念の高まりや米中関係の悪化がある。中国経済の成長性に対する相対的な評価は、インド、インドネシア、ベトナムの台頭により著しく低下した。中国は依然として有望な投資先のひとつであるものの、もはや「工場」および「市場」として他を圧倒する特別な存在ではなくなった。民営企業や外資企業の投資減退には、中国経済の成長性に対する懸念の高まりだけでなく、経営環境の一段の悪化に対する警戒感の高まりも影響を与えている。習近平政権が共産党による安定的な統治を第一優先課題とする「総体国家安全観」を掲げたことにより、企業を取り巻く政治的・社会的な環境が変化し、企業は以前にも増して息苦しさや不安を感じるようになった。民間企業と外資企業が抱く中国経済の成長性に対する懸念と経営環境の一段の悪化に対する警戒感が弱まるとは考えにくいことから、中国経済は低迷を余儀なくされ、習近平政権の求心力も低下すると見込まれる。同政権は、「総体国家安全観」を掲げたこと によって、かえって共産党による安定的な統治が脅かされるジレンマに陥る可能性が高い。習近平政権には、企業が感じる息苦しさや不安に真伨に向き合い、政策を練り上げるフォローワーシップが求められる。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)