RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.24,No.94
「冬の時代」におけるASEAN地域のスタートアップ
2024年09月13日 岩崎薫里
順調に拡大していた世界のスタートアップ投資は2022年以降、一転して調整期に突入し、「冬の時代」と称されるようになっている。ASEAN地域もこの波から逃れられず、2010年代初頭にほぼゼロの状態から活発化したスタートアップ投資は、今回初めての調整を経験している。元来、スタートアップの成功確率は低いが、資金調達難からそれに拍車がかかり、廃業が相次いでいる。
廃業は社会課題解決型のスタートアップにも広がっている。ASEAN地域は金融包摂の問題から都市・地方間の格差の問題まで、様々な社会課題を抱える。それがビジネスチャンスとなって、この地域から社会課題解決型スタートアップが数多く輩出されてきた。しかし、「価格・コストに問題」「ビジネスモデルに不備」「市場ニーズなし」といった、一般のスタートアップと同様の理由により廃業に追い込まれるところが続出している。また、とりわけ中小企業や個人による課題解決を目指すスタートアップは、一般のスタートアップ以上に経営の舵取りが難しいことが廃業事例から改めて確認出来る。具体的には、①取引単価が低くならざるを得ない、②顧客のデジタルリテラシーが相対的に低いことから、サービスのデジタルでの完結が難しい、③金融に関しては、信用リスクが高く高度なリスク管理が求められる、などである。
留意すべきは、投資家から以前と同様に高い評価を得ているスタートアップには引き続き投資マネーが流入している点である。そうしたスタートアップであっても、事業の見直しを大なり小なり行っており、現在の調整局面が一巡した後は、筋肉質となった経営体質のもと、「攻めの経営」に転じることが期待される。支援材料となるのは、「冬の時代」以前に強みであった、この地域の人口増とそれに伴う着実な経済成長の持続という将来展望が、今も大きく変わっていない点である。
日本企業がASEAN地域の成長を取り込むためにスタートアップに投資をしたり業務提携をしたりする動きは、新型コロナ禍でいったん下火となったものの、ここにきて再び生じつつある。ただし、中国や韓国をはじめ世界各地からも同様の動きがみられる。有望なスタートアップを巡る連携競争に日本企業が競り勝つためには、スタートアップが魅力に感じるメリット、つまりは成長を後押しする材料をいかに提示出来るかがカギを握ることとなろう。
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