ビューポイント No.2024-014
(コメント)自民党総裁選:経済政策の論点―「金利のある世界」「人口減少社会」に対応した経済・財政政策を―
2024年09月11日 石川智久
自民党総裁選が9月 12 日に告示される。27 日には新総裁が選出され、その後組閣へと進むが、経済政策については、以下の観点から議論が深まり、新政権においてはその方向性で政策が進むことを期待する。
まず、「金利のある世界」となるなか、新政権においては、これまでのような低金利に甘えた経済・財政政策では無く、ムダを排除した財政運営を進めることが重要である。そして、人口減少社会に対応した少子化対策や地方創生も急ぐ必要がある。具体的なポイントとしては①財政再建の加速、②子育て世帯に配慮した社会保障制度の在り方、③産業強化を通じた地方創生を進めるべきである。
わが国の財政状況は、新型コロナ禍を経て一段と悪化している。今後は、「金利がある世界」となるなか、GDP の倍以上の長期債務残高(国+地方)を抱えるわが国では、公債費の増加が避けられない状況であり、財政再建は待ったなしである。2025 年の PB 黒字化実現に向けて、「骨太の方針」で盛り込まれた経済・財政新生計画を速やかに実行するほか、補正予算と予備費の常態化と大型化からの脱却が必要であり、本来あるべき抑制的な姿に戻すよう、ルールを設定すべきである。とりわけ、足元で人手不足が深刻化するなかでは、政府支出の金額だけ増やしても、予算未執行が増えるだけでなく、官需の拡大が供給不足を助長し民需を締め出す「クラウドアウト」が発生する恐れもある。日本経済の「供給力の天井」の低さが問題となるなか、政府支出は供給力を増加させる分野に絞るといったワイズスペンディングが求められる。
物価の上昇傾向が続くなか、局面によっては、利払費よりも税収の増加額が上回ることで、利払費増加による財政収支への悪影響が緩和される可能性も考えられる。もっとも、それが発生したとしても一時的に過ぎないということに留意する必要がある。税収増の場合でも財政健全化に向けた真摯な姿勢を堅持して、毎年度の歳出抑制を確実に実行していくことが、市場の信認を得るためには極めて重要である
今後支出が増加する項目としては防衛費、GX、こども関係支出が指摘できるが、それぞれ改善すべき課題がある。まず、防衛費については、装備品の強化という視点だけでなく、防衛産業から生まれた新技術が民間に転用されることで、経済が発展してきたという歴史に鑑みれば、輸出産業化や米国 DARPA のような防衛産業から新しい技術を生み出す機関の創設など、イノベーションや産業競争力強化につなげた対応が重要である。また、GXについては新市場創出、金融面の強化、国際連携という観点から、具体化を急ぐ必要がある。特に海外との連携が重要であり、ガラパゴス化しないように注意すべきである。また、こども関係については、EBPM 等を活用して、出生率向上に資する政策を優先すべきである。わが国の子育て関係予算(家族関係社会支出)が既に OECD 平均並みとなっているが、出生率は 1.20 と、近年 1.5 前後で推移している OECD 諸国平均を下回っている。これは現在の子育て支援策のうち、出生率向上に繋がっていないものが多く含まれている可能性を示唆している。これまでの予算の使い方に間違いはなかったのか検証も進めて、その上で効果が高い政策を抽出していくことが重要である。
国民負担については、国民負担率が上昇傾向にあるなか、特に若い世代の負担が大きい一方で、彼ら向けの給付が少なくなっている。また、勤労世帯、特に子育て世帯の負担の重さが少子化に繋がっているという意見もあるなか、国民負担にあり方の是正が重要である。若年層の負担を減らすと同時に高齢者に偏っている給付も是正し、真の意味での全世代型社会保障を確立すべきである。社会保障制度改革は現役世代の負担を減らすことで、少子化対策になることも留意する必要がある。
また、金融所得課税については、拙速に動いては足元の株価回復をとん挫させてしまうリスクがある。金融所得課税については、徴税コスト、税収、金融市場への影響を総合的に判断して導入の可否や税率の水準を決めるべきである。
地方創生についても、各種給付金・補助金のような一時的なバラマキではなく、地域の産業強化を通じて成し遂げるべきである。給与水準が高い職種が地方に増えれば、地域に留まる人材が増えるほか、東京から地方への人の移動は増加する。具体的には、まず、中小企業対策が重要である。従業者総数をみると東京都以外の道府県では約80%が中小企業勤務である一方、東京では約 40%が中小企業勤務であり、中小企業対策は地方ほど大きな効果がある。中小企業対策と地方創生をうまく連携すべきである。また、地方では農業・林業が重要産業となっているが、今政府が進めている農林水産物・食品の輸出拡大のさらなる強化はこれに資するため、加速していく必要がある。さらに、昨今注目が高まるインバウンドについては、地方部に回復に遅れがみられるなか、インバウンドの地方誘導も政策の柱とすべきである。
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