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夜間・休日の小児救急医療体制整備に関するアンケート調査

2024年09月09日 川内丸亮介、土屋敦司青山温子富田奈央子川﨑真規


調査結果概要
調査結果

本アンケート調査の背景
 救急出場件数は年々増加している。東京消防庁の統計によると、令和4年の救急出場件数は約87万件で、過去最多を更新した(※1)
 また、救急相談件数は東京消防庁が約30万件としているが、曜日別では、土曜、日曜が多く、時間帯別では19時にピークを迎えている。救急相談の対象者の年齢構成は0歳から14歳までが全体の約24%を示しており、特に夜間・休日の小児の救急相談の需要が高い(※2)
 他方、2024年4月より、医師の残業時間に上限を設ける医師の働き方改革が施行された。特に、救急科の医師の平均労働時間は長い。医師の働き方改革に伴い、小児の夜間・休日の診療体制の縮小や救急車利用の軽症患者に対する選定療養費の運用が開始される等、救急医療の供給体制の維持は困難になっている。
 こうした中、15歳未満の患者に対する往診料の算定回数は2022年度に8,302件に上っている。2024年6月1日より救急往診(夜間・休日に緊急度判定を行い、必要に応じて医師が自宅で診察するサービス)の診療報酬改定など制度改定も施行され、一部の救急往診サービス提供事業者は事業撤退を発表しており、小児の救急医療の供給体制に関する状況は転換点を迎えている。
 また、2024年1月の日医総研の調査(※3)では、「今後重点を置くべき医療提供体制」の1位が「夜間・休日診療や救急医療体制の整備」となっており、特に20歳から44歳までの世代で顕著であることから、子育て世帯にとって、夜間・休日の救急医療体制の整備のニーズは高いと考える。
 本調査では、小児救急医療体制の整備に関する示唆を得ることを目的に、子どもを持つ首都圏の親に対し、夜間・休日の小児救急医療の課題、小児救急医療体制に関するニーズ、自治体の子育て支援策としての救急医療体制構築に関する要望等をアンケートで聴取した。

アンケート調査から得られた小児救急医療体制に関する課題
 本アンケート調査より、「夜間・休日の小児かかりつけ医機能を補完するサービスの認知・普及の不足」、「小児救急外来への通院困難性」といった小児救急医療に関する課題が明らかになった。
 ・夜間・休日の小児かかりつけ医機能を補完するサービスの認知・普及の不足
 小学6年生以下の子どもを持つ家庭の79%で小児かかりつけ医を持っているが、そのうち夜間・休日にかかりつけ医が診療を行っている家庭は4%に留まる。このため、夜間・休日の救急の受診に関して「利用すべきかの判断」に迷う親は多く、子どもの急病時に親自身は子どもを受診させるべきか判断に困りごとを抱えている。また、受診をすべきかどうか悩む親に対して、救急往診、電話相談、オンライン診療といった医療サービスが提供されているが、救急外来・119 番と比較してその認知度は低く、十分に普及はしていない。
 ・小児救急外来への通院困難性
 約25%の親は、「交通手段がなく、救急外来に行くことができなかった」、「タクシー代などの交通費が高く、救急外来に行くことができなかった」、「兄弟姉妹がいて、救急外来に行くことができなかった」など、通院困難性を理由に救急外来の利用をあきらめた経験を有する。特に自家用車を保有しない家庭のうち27%は、交通手段がなく救急外来に行くことの難しさに不満を抱えている。世帯当たりの自動車保有率が低い都市部では、通院困難性を要因として救急外来受診をあきらめる家庭も多いと想定する。

アンケート調査から得られた小児救急医療体制に関するニーズ
 救急往診は他の救急医療サービスと比較して認知度が62%と他の救急医療サービスに比べて最も低くなっているが、救急往診を利用したことがある親の86%は小児夜間・休日往診を必要なサービスと考えており、特に、子ども2人以上を持つ親や乳幼児を持つ親の救急往診のニーズが高い。
 また、家族で住む街を決める際に3割程度の親は「小児の医療の充実度」を重視しており、特に「小児科の充実」、「夜間・休日救急外来の充実」を自治体に求めている親が多い。
 なお、東京23区の団体が実施した別の調査(※4)では、19%の親が「子どもの救急医療体制の確保」ができることで、「現実的に今後持つ予定の子どもの数」が「理想として今後持ちたい子どもの数」に近づくと回答している。

夜間・休日の小児救急医療体制整備に関して自治体に求められるアクション
 働き方改革の影響もあり、既存の夜間・休日の救急外来の維持・拡充は困難であると想定される。このため、自治体においては、既存の小児救急医療と救急往診やオンライン診療を実施する医療機関や事業者との連携、利用の促進が求められる。例えば、小児医療に特化したものではないが旭川市では、オンライン診療と119番を組み合わせて救急搬送を減らすといった萌芽事例も出始めている。
 また、救急往診に関しては、利用した親は必要なサービスと考えている一方、40%の親は1,000円以上自己負担金として支払うことに抵抗があり、利用の促進には補助や適正な利用を促す仕組み作りも求められる。
 親にとって「小児の医療の充実さ」は住む自治体を選ぶ際に重要視するポイントの一つである。小児救急医療体制の構築に加えて金銭的な補助などの仕組み作りを進めることは、家族にとって住む街の魅力や安心度を向上させる子育て支援策になるのではないかと考える。

アンケート実施概要
調査名:夜間・休日の小児救急医療体制整備に関するアンケート調査
調査地域:首都圏(東京都・神奈川 ・千葉 ・埼玉 )
調査対象:子ども(末子が小学6年生以下)を持つ20~69 歳の男女
サンプルサイズ:3,000 名
調査手法:インターネットアンケート
※本調査で用いる調査手法であるインターネット調査は、回答者が事前にモニターに登録したインターネット利用者に限定されるため、統計的な代表性確保が困難であり、本調査結果の解釈においても、こうした一定のサンプリングバイアスの存在に留意する必要がある。
調査時期:2024 年6 月7 日(金)~2024 年6 月10 日(月)


(※1) 東京消防庁 「令和4年 救急活動の現況」(令和5年9月発行)
(※2) 東京消防庁 「東京消防庁救急相談センター統計資料(令和5年版)」(令和6年4月)
(※3) 日本医師会総合政策研究機構「第8回 日本の医療に関する意識調査」(2024年1月23日)
(※4) 特別区長会調査研究機構 「令和5年度 調査研究報告書 少子化対策の傾向が顕著な特別区で有効な少子化対策」

<本提言の帰属>
 本提言は、株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門ヘルスケア・事業創造グループが、中長期的な観点から社会貢献をしたいとの考えから、公正・公平な視点を心がけた上で意見を取りまとめ、提示するものである
協賛:ファストドクター株式会社

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