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リサーチ・フォーカス No.2024-018

投資先としての中国の優先順位低下 ―データから読み取る中国経済の先行きに対する懸念の高まり―

2024年07月11日 三浦有史


中国の 2023 年の国際収支上の対内直接投資(純流入額)は、前年比 77.5%減の 427億ドルと、2022 年の同
44.7%減に続き、2 年連続で大幅な減少を記録した。この背景には、中国経済の成長性に対する懸念の高まりがある。

成長性に対する懸念が高まる理由として、①住宅需要の先細りを踏まえた業界の再編と言った不動産危機の着地点が見えないこと、②地方政府債務危機の先行き不安が一段と高まっていることが挙げられる。

人口減少という長期的な危機に対する対応も不十分である。上海市の合計特殊出生率が 2023 年に 0.60 となったように、中国の人口は急速に減少し、「市場」としての魅力が低下する。生産年齢人口は人口を上回るペースで減少することから、中国は「世界の工場」としての地位を維持することも難しくなる。

個人消費の低迷も、成長性に対する懸念を増幅する。習近平政権は、「共同富裕」の実現に向け、消費性向を引き上げるとしたが、一向にその兆候は現れない。中国のGDP はインドや ASEAN を圧倒する規模を有するが、日本企業にとっての市場規模は ASEAN より小さい。中国は消費主導経済の転換が進んでいないため、市場の伸び代も期待されるほど大きくない。

対外関係が緊張の度合いを増すことも、成長性に対する懸念を増幅する要因である。国際通貨基金(IMF)は、
2000~2021 年の世界の産業連連関表をもとに、中国と経済協力開発機構(OECD)加盟国の間で今日のような相互依存関係がなかった場合、中国の実質成長率は 6.9%押し下げられたと見る。

製造業の集積の厚さはインドや ASEAN にない中国の強みである。しかし、対内直接投資が減少する一方で、中国企業の対外直接投資が増えていることから、この強みが今後も維持できるかは不透明である。国産化率の引き上げに象徴される輸入代替政策は、経済安全保障上の理由から当然の政策と見られているが、中国をグローバルなサプライチェーンから切り離し、製造業を弱体化させる危険性を孕む。

習近平政権は投資環境の改善に乗り出しているものの、対内直接投資の減退を引き起こす最大の問題は、中国の成長性に対する懸念が高まっていることにある。同政権には、7 月 15 日から開催される「三中全会」において本稿で示した課題にどのように取り組むかを明示することで、成長性に対する「懸念」を「期待」に変えることが求められる。

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