日本総研ニュースレター
グリーン・マーケティングが実現する生活者の脱炭素行動変容
2024年04月01日 佐々木努
脱炭素に向けた企業の悩みの最前線
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、省エネの推進や再エネの導入など自社で実施可能な範囲の対応はもはや「当たり前」のこととなった。先進企業の関心はその先にあり、中でもScope3排出量やカーボンフットプリント(CFP)には注目が集まる。ただし、それらへの対応を進めるには、サプライチェーンの上流から下流に至るまで、取引先や顧客とともに脱炭素化を進めなければならない。
しかし、脱炭素の対応範囲の広がりにつれて増すコストを、いつまでも企業が自己負担し続けることはできない。一方、普及が期待される環境配慮商品は、一般にコスト高なこともあり、あまり売れ行きはよくないのが実態である。ほかにも、メーカーや小売流通企業の担当者には、
・環境配慮のために包装やラベルを小さくしたいが、売り場で目立たず売り上げが減るかもしれない
・環境配慮商品の認知拡大・ニーズ喚起の活動に取り組んでも、道半ばで棚落ちしてしまう
といった、環境配慮商品向けの工夫の難しさや浸透までに時間に要することなどへの悩みがあり、筆者もよく聞く。
環境配慮商品の自律的な市場を成立させるには、最終消費者である生活者による相応の負担が避けられない。ゆえに、生活者の行動変容をいかに促すかが、脱炭素に向けた企業の悩みの最前線と言える。
「買うためのコミュニケーション」でリテラシーを高めよ
環境配慮商品が売れないのは、生活者から関心ゴトとして捉えられていないことに尽きる。メーカーや小売流通の企業がどれだけ環境に良い商品を作り、その価値を訴えたところで、関心がなければ見向きもされず、情報を届けることすらできない。買う素地がない状況で、「売るため(売る人のため)のコミュニケーション」を展開しても効果は得られない。教育・啓発によって、生活者の脱炭素に係るリテラシーを高め、「買うため(買う人のため)のコミュニケーション」も並行して実践することが必要である。
「売るためのコミュニケーション」偏重の状況から、「買うためのコミュニケーション」にいくばくかシフトして市場創出を実現する。これがグリーン・マーケティングの考え方である。
「みんなで減CO2プロジェクト」に見る行動変容の萌芽
日本総研では、「買い物」や「教育」の切り口から生活者の環境配慮型の行動変容の実現を目指すグリーン・マーケティング・ラボを2023年9月に立ち上げ、自治体やメーカー、小売流通などと連携して行動変容の方法論を開発・実践する「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」を進めている。
「買い物」の取り組みでは、ドラッグストアや食品スーパーに環境配慮商品を訴求する特設棚を組み、別途用意したアプリも活用して脱炭素に触れて、学ぶ機会を提供した。また、「教育」の取り組みでは、商品に記されたエコラベルを家庭やお店で探し、くらしの無駄行動をモンスターに見立て描画する催事を開催し、気づきの機会を用意した。
こうした活動を通じて分かったのは、生活者は、
・環境配慮商品のことに触れると、商品好感度が増す
・商品の環境貢献を理解できると購買意欲が増す
・環境への関心が低い層は、楽しく触れる機会が効く
・子どもが脱炭素に楽しみながら学ぶと、親も影響を受けて(むしろ親の方が)脱炭素への関心が高まる
・体験を通じて学ぶと、自分ゴト化し効果が持続する
ことなどである。これらは、生活者の行動変容を促す重要なヒントと言える。
メーカー、小売そして行政によるエンゲージメントが処方箋
上記の行動変容に係る示唆は、「ごく当たり前」のことと思われるかもしれない。結局、環境配慮商品の市場創出には特効薬はなく、漢方薬や体質改善と同じように、一定の時間をかけながら愚直に推進するほかないのである。
この「薬」の効き目を高めるには、困難な問題を一緒に取り組む、志を同じくする仲間をつくることが肝要である。メーカーと小売が、従来の棚割りの商習慣を超えて、棚を通じた環境配慮商品の陳列・訴求に協力し合うことが蹴り出しになる。ここに自治体も関与して啓発を絡めた統合的な生活者とのコミュニケーションを図ることで、効果的な市場創出が期待できる。
こうしたエンゲージメントを社会全体に広げることで、脱炭素社会の実現を力強く後押しするべきである。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。