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JRIレビュー Vol.4,No.115

子ども人口減少下の保育の在り方

2024年05月10日 池本美香


国はこれまで、保育所の待機児童解消を最優先課題として、施設整備に力を入れてきたが、待機児童数はここ5年ほどで大幅に減少し、少なからぬ地域で施設の定員割れが問題となりつつある。そこで本稿では、今後予想される子ども人口の減少に対して、海外とりわけ人口密度が低いもとでの先進的な取り組みが参考となるニュージーランドとスコットランドの事例を参照しつつ、保育政策はいかにあるべきかを検討する。

今後のさらなる子ども人口の減少を考えれば、施設の統廃合や規模の縮小が不可避な状況といえる。すでに子ども人口が減少している地域では、保育士不足や保育者の質的低下、保育事業者の赤字決済、統廃合による長い登園時間など、子どもにとっての悪影響が出始めている。国も2021年に、人口減少社会における保育の在り方について検討を行ったものの、多機能化など、保育事業者の経営安定化策に重点が置かれ、すべての子どもに質の高い保育を保障するという視点が欠落している。

翻って、ニュージーランドやスコットランドでは、すべての子どもに対して質の高い保育を受ける権利を保障することが国の役割であるとの認識のもと、子ども人口の少ない地域においても、多様かつ質の高い保育を届ける工夫がみられる。
一つ目は、アクセスの保証である。子どもが少ないために施設が存続できず、保育が受けられない子どもが出ないように、孤立した地域や小規模園に対する追加的補助、親による保育提供の促進、無償の通信制保育の保証などがある。
二つ目は、多様な保育形態を積極的に認める動きである。異年齢集団の小規模園、家庭的保育のグループ化、自然保育、都市に住む家庭の一時的な受け入れなどが見られる。
三つ目は、質確保のための制度設計である。国の評価機関による全施設の質評価と評価結果の公表、子どもに補助金をつけるという考え方に基づく施設間の補助金格差是正、保育者の処遇改善が進んでいる。
この背景には、ニュージーランドでは1989年と早い時期に、スコットランドも2003年に、子どもコミッショナーと呼ばれる子どもの権利監視機関が設置され、国連の子どもの権利条約に沿って政策全般の見直しを積極的に進めてきたことがある。

わが国では2023年4月、子どもの最善の利益を優先して考慮することを基本理念に掲げるこども基本法が施行され、12月には同法をふまえ、乳幼児期の重要性に焦点を当てた「はじめの100か月の育ちビジョン」が閣議決定された。国は、子ども人口の減少が加速するなか、改めて、すべての子どもに最善の保育を受ける権利を保障するという方針を明確に打ち出し、海外の取り組みを参照し、アクセスの保証、多様性の確保、質の確保など、保育の在り方を早急に見直すべきである。

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