リサーチ・フォーカス No.2023-052 【金融政策正常化シリーズ④】 金利上昇、高齢世帯の4割に恩恵及ばず―金利収入以上の物価高が家計を圧迫― 2024年03月25日 西岡慎一、北辻宗幹金利が本格的に上昇する局面に入った模様である。最近では、賃上げの動きが加速し、日銀が短期金利を一段と引き上げるとの見方も増えている。これにより預金金利も上昇する可能性が高い。すでに5年以上の定期預金の金利が13年ぶりの水準に上昇しているほか、日銀の利上げに沿って短期の定期預金や普通預金の金利も上昇すると考えられる。金利が上昇すると家計全体で利息の受け取りが支払いを上回る見込みである。仮に、市場金利が2%上昇した場合、家計全体のネット金利収入は年間4兆円、1世帯あたりの平均で同5.5万円増加する計算になる。これは2%インフレによる消費の負担増(世帯平均7.0万円)を一定程度カバーできる収入額となる。なかでも金利上昇による恩恵は高齢者に厚く、70歳以上の高齢世帯では年間14万円の金利収入増となり、インフレによる負担増(同5.7万円)を大きく上回る。もっとも、高齢世帯では資産格差が大きく、金利上昇の恩恵が及ばない世帯も多い。高齢世帯の4割にあたる590万世帯が2%インフレによる消費の負担増をカバーできなくなる計算である。こうした世帯には単身世帯や年金収入が少ない世帯が多く、預金が600万円を下回っている点で共通している。このうち預金をまったく保有していない世帯も120万世帯にのぼり、近年顕著に増加している。貯蓄形成が十分でない世帯は50~60歳代でも増加しており、今後、インフレの定着で家計が圧迫される高齢世帯が一段と増加する可能性がある。こうした事態に対応するためにも、政府は、高齢者の雇用促進に加えて、①物価上昇で基礎年金が目減りする現行制度の見直しや②生活保護の受給を容易にする取り組みなどを通じて、セーフティネットを強化する必要がある。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)