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リサーチ・フォーカス No.2023-039

食料安保で踏まえるべきポイント ― 輸出力強化と緊急事態法制整備を食料・農業・農村基本法改正の柱に―

2023年12月06日 石川智久


世界の穀倉地帯であるウクライナにロシアが侵攻したことによって、食料品価格が国際的に高騰し、わが国でも食料安保に対する警戒感が強まっている。

食料安保については、短期的な対応と中期的な対応に分けて考えていく必要がある。まず、短期的な対応としては突然の輸入途絶などに対応できるよう、効率的かつ実効的な備蓄態勢を構築することが重要である。

次に中期的な対応としては、食料自給率の向上が重要であるものの、平地面積の狭いわが国で闇雲に自給率向上を図ることは非現実的である。さらに平時において農業に必要以上の人材・資金を投入することは、産業構造を歪にするリスクがある。その観点からは、自給率100%を目指すのではなく、比較優位がある分野などにおいて自給力を増やすことが重要。競争力のある農産物を増やすことで農地面積減少を食い止めることも重要。農業側が飼料、畜産側が畜産糞尿を肥料として生産する耕畜連携もわが国が輸入に過度に頼る飼料・肥料の国産化を増やす観点から有効。さらに、自給できない食材などについては調達先の多角化が不可欠。

もっとも、こうした対応を取っても、食料供給が危機的な状況に瀕する場合もある。その際には、公平な食糧配給、食料生産地の確保など、非常事態対応を求められ、それに対応した法制度なども事前に整備していく必要がある。現状は緊急事態食料安全保障指針で一定の対応がされているが、同指針は法令に基づいていない。

現在、農政の憲法ともいえる食料・農業・農村基本法の見直しが議論されており、先般、答申が公表された。これは、概ね上述の方向性に沿っている点で評価できる一方、具体策にはまだ踏み込んでいない。同法は2024 年の通常国会提出予定であるが、今後の議論や基本法制定後の関連法制整備や運用段階で骨抜きされないように注視していく必要がある。特に非常事態体制については、答申で「法的関係の整理」「必要な対応」とあるが、この方針から後退することなく、現状の「指針」の改訂といった小手先の対応にとどまらず、網羅的で実効性の高い法令整備が不可欠。

一方で、農業保護水準を示す指標であるPSE(Producer Support Estimate)のGDP 比をみると、わが国はOECD 平均より高い。食料安保に際しては、財政のバラマキではなく、規制改革など、財政負担を生じさせないパッケージを推進すべき。


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