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ビューポイント No.2023-017

重要鉱物供給網再編のトリレンマ ―脱中国依存と脱炭素の追求が高める経済リスク―

2023年11月30日 野木森稔


西側諸国では、重要鉱物(Critical Minerals)のサプライチェーン再編の動きが強まっている。その狙いには、①脱中国依存、②脱炭素、③経済の安定が挙げられる。1つ目の脱中国依存は、重要鉱物が半導体と同様にハイテク機器に欠かせない材料であることが背景にある。軍事技術においても重要な役割を持つため、極端な中国への供給依存がもたらす地政学リスクが問題視されている。2つ目の脱炭素は、重要鉱物が電気自動車(EV)や再生可能エネルギーに関連する機器にも使用されるためである。今後急速な進展が見込まれるクリーン・エネルギーへの転換に重要鉱物は不可欠なものである。3つ目の経済の安定については、重要鉱物を巡る供給網の途絶やエネルギー転換の失敗などは経済に多大なリスクをもたらすことが背景にある。リスクを最小限にする観点から、サプライチェーンの見直しが急がれている。

しかし、現在、中国が環境関連機器(バッテリーや再生可能エネルギー関連機器)や重要鉱物を含むその部材を安く供給しており、これが世界におけるクリーン・エネルギー転換に向けた経済的な負担を軽くしているのが実情である。世界がクリーン・エネルギー転換のソースを中国に頼り切っている現状を踏まえると、「脱中国依存」、「脱炭素」、「経済安定化」をすべて同時並行で進めることは現実的には不可能である。

重要鉱物のサプライチェーンを再編させるためには、トリレンマの問題が生じる。すなわち、(A)脱中国依存・脱炭素(経済安定の放棄)、(B)脱中国依存・経済安定化(脱炭素の放棄)、(C)脱炭素・経済安定化(脱中国依存の放棄)の組み合わせしか選べず、3つのうち1つを放棄せざるをえない。西側諸国が現在優先する脱中国依存と脱炭素を軸に重要鉱物のサプライチェーンを強引に再編させることになれば、インフレ加速や財政悪化が生じ、経済を不安定化させると考えられる。

「脱中国依存」と「脱炭素」はともに西側諸国内で理解を得やすく、今後も大きな流れが変わることはないと考えられる。この流れがともに強まる場合、重要鉱物のサプライチェーン再編を進める動きが一段と強まり、結果として物価安定や財政持続性が損なわれるリスクが増大する展開に注意する必要がある。

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