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中高年女性のリスキリング強化を
~定年を迎える「均等法」世代の能力を活かす~

2023年09月01日 小島明子


これから増える定年女性
 1986年、男女雇用機会均等法が施行され、女性の総合職としての採用が始まった。しかし、当時入社した多くの女性たちにとって、仕事と生活の両立は容易なことではなかった。長時間労働が前提とされる中で、仕事を優先し、結婚や出産という機会を選択せずに働き続けた人たちも少なくない。政府が掲げる女性活躍推進を追い風に、女性活躍を先導してきた世代であるが、彼女たちの年齢も定年に近づきつつある。
 今までも定年まで勤め上げる女性がいなかったわけではない。しかし、今後は徐々にではあるが、男女雇用機会均等法世代をきっかけに、増えていくことが予想される。
 さらに、管理職経験者であれば、定年前に直面する役職定年によるモチベーション低下の問題も出てくることになる。今までは管理職の多くが男性であったことから、男性特有問題として見られることが多かったが、女性も同様の問題に直面することが想定される。

2つの施策で中高年女性のリスキリングを強化
 日本総研では、東京圏の会社で働いている中高年女性を対象に、生活に関するアンケート調査を2022年に実施した(※)。調査の結果、2人に1人が私生活には満足しているものの、現在の仕事にはやや興味・好奇心が欠けるという結果が得られた。一方で、中高年女性の約7割が、定年後も今の勤務先に勤め続けたいと考えていることや、就職時点に比べて現在の方が自己成長ややりがいのある仕事をしたいと考えるようになった女性が多いことも明らかになっている。定年後の再雇用、あるいは役職定年後であっても、中高年女性の高い意欲や能力を活かせれば、企業の生産性向上に十分貢献できると考える。
 ここで、中高年女性の経験やスキルを活かすための2つの施策について述べたい。

 1つ目は、キャリア研修や個別のキャリアコンサルティング支援である。近年は、キャリア形成支援の重要性が認識され、キャリア研修などを行う企業が増えている。しかし、中高年よりも若手が優先される傾向が強く、また、定年まで働く人の多くが男性であったことから、研修自体が中高年男性を中心に想定した内容であることも多い。そのため、中高年かつ女性となると、優先順位が低くなってしまうのが現実である。一方、キャリアに関する研修や相談機会を得られた女性に、その効果について聞くと、「自分のキャリアを考えることの重要性を認識できた」(37.2%)という回答が最も多かった。定年が視野に入ってきた女性を対象にキャリア研修や相談の場を設けることは、自己理解を促し、今後のキャリアを整理する上でも、重要な意味があるといえる。
 2つ目は、教育支援の強化である。OECDによれば、日本のOJT(On the Job Training)の実施率は、男性が50.7%、女性が45.5%と、いずれも50%弱にとどまった。一方、OJT実施率が7割程度に上る北欧を中心とした国々では、男性よりも女性のOJT実施率の方が高水準という傾向さえ見られる。加えて、厚生労働省によれば、GDPに占める企業の能力開発費(OFF-JTが推計されたものであり、OJTを含まない)の割合は、2010~2014年では、米国、フランス、ドイツ、イタリア、英国に比べ、日本は突出して低く、経年で見ても低下傾向にある。これらのことから、日本では勤め先による従業員への投資(OFF-JT、OJTともに)が諸外国に比べて十分に行われているとはいえない。特に女性については、教育支援を強化する十分な余地がある。
 最近では、イノベーション人材を育成するために、デザイン思考やアート思考を養うなどといった、従来の座学とは異なる教育プログラムも現れ始めた。キャリア研修や相談機会を提供すると同時に、シニアになっても組織の中で新たな価値を発揮できる女性人材として活躍できるようにしていくためには、さまざまな教育プログラムを取り入れながら、リスキリングを強化していくことが重要である。

超高齢社会のロールモデル
 女性は男性よりも寿命が長く、働く意欲の高い女性が、いくつになっても活躍し続けられることは、日本社会にとってもメリットは多い。今までは、子育てとの両立に主眼においた議論が多くなされてきたが、今後は、年齢の高い女性にも目を向け、定年後も働き続けるための取り組みの検討が期待される。

(※) 『女性の定年に関する調査報告』(2022年11月15日/日本総研ホームページ)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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