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出生率が1.5を超している先進国のプロフィール:子どもと女性の視点から

2023年09月29日 村上芽


1.はじめに
 9月の厚生労働省の発表によると、2022年のわが国の合計特殊出生率が1.26に低下した。先進国においては、人口置換の水準とされる出生率2.0を切ることが一般的だが、1.5を下回ると「超低出生率」と呼ばれ、人口減少の懸念が高まる。世界で最も出生率が低い国は韓国で、2018年以来1.0をも下回る水準が続いている。日本の出生率は、1995年以降1.5未満で、最近は超低出生ながらも安定しているようにも見えたが、2005年に続き2度目の1.2台を記録するに至った。1.5未満で長年推移している国々はこのほか、イタリア、スペイン、マルタなどである。
 筆者は、「少子化」対策ではなく、「人口」政策と「生きやすさ」政策の二本柱で政策立案すべきであると提案している(村上[2023])。その際、それぞれ現存する制度を踏襲するのではなく、現在及び将来の人そのものに着目することが必要ではないかと考えている。
 本稿では、同じ出生率の水準にあっても、国によって子どもや女性の生きる環境が異なる状況を概観し、私たちがどのような暮らしを望むか、どのような政策が有効かを考えるための材料を提供したい。

2.子どもの幸福度と出生率
 まず、子どもの幸福度について、ユニセフ・イノチェンティ研究所による2020年調査の国別順位を用いた。その順位のある38カ国を対象に、世界銀行のデータから出生率(2020年)と比較すると、次の散布図のようになった。縦軸の中心線は、国別順位の中位(19.5)を置き、横軸の中心線は、出生率1.5を置いた。

図表1 子どもの幸福度と出生率

出所:ユニセフ[2020]及び世界銀行データに基づき筆者作成


 結果をみると、日本は、子どもの幸福度は38カ国中20位のため真ん中よりやや左に位置し、出生率は1.33のため1.5ラインよりも低いグループに位置している。
 なお、日本政府は、「希望出生率」という呼び方で実現したい出生率の水準を示しているが、数字としては1.8 、直近の動向を反映させると1.6程度となっている。
 同じ1.5を超している国でも、子どもの幸福度が高いグループ(右上の象限)と低いグループ(左上の象限)に分かれる点に注目したい。子どもの幸福度を測る際の構成要素は、「生活満足度の高い15歳の子どもの割合」「15~19歳の若者の自殺率」「5~14歳の子どもの死亡率」などである。子どもの幸福度が高いことによる弊害は考えにくいため、「子どもの幸福度が高い社会の方が望ましい」と言ってよいだろう。つまり、右上の象限に位置しているオランダやデンマーク、フランスなど9か国が、2020年時点での子どもの幸福度と出生率の状況でみて相対的によい状態にあったと言える。
 
3.ジェンダー平等と出生率
 次に、ジェンダー平等について、世界経済フォーラムによる2020年のジェンダーギャップレポートから、OECD加盟国38カ国(2023年時点)の経済と政治のスコアを平均したスコアを算出した。ジェンダーギャップ指数は本来、経済と政治に加え、健康と教育の4つの側面から男女の差を指数化している。本稿では、女性の仕事と子育ての両立という観点から、経済と政治に絞ってスコアを活用することとした。
 その38カ国を対象に、世界銀行のデータから出生率(2020年)と比較すると、次の散布図のようになった。縦軸の中心線は、38カ国のジェンダーギャップ指数の最上位国と最下位国の平均値0.54を置き、横軸の中心線は、出生率1.5を置いた。
図表2 経済及び政治におけるジェンダーギャップと出生率

出所:世界経済フォーラム[2020]及び世界銀行データに基づき筆者作成


 結果をみると、日本は、ジェンダーギャップはトルコに次いで2番目に大きかった。出生率は1.33のため1.5ラインよりも低いグループに位置している。
 子どもの幸福度のケースと同じように、出生率が似たような水準であっても、経済と政治におけるジェンダーギャップが小さい国のグループと大きい国のグループに分かれることが分かる。過去には、女性の社会進出や自立が進めば必然的に出生率が低下するとする言説があったが、最近では、女性の仕事の有無が必ずしも出生率に関係しないとする見解が有力視されている。上記の分析でも、経済と政治の場において女性も表に立っているかどうかと、出生率には関係がないことが見て取れる。右上の象限に位置しているような、ジェンダーギャップが小さくても1.5を超している出生率を達成している国もあることに注目したい。

4.おわりに
 2つの散布図で右上の象限に入った国々は図表3のとおりで、両方に該当したのは5カ国だった。
 もちろん、これらの国々でも、ジェンダー平等や子育て支援、子どもの権利に関する政策形成の歴史やアプローチにはそれぞれ個別性がある。とはいえ、「子どもが幸せで、かつ出生率も高め」「女性が活躍していて、かつ出生率も高め」であり、これは日本から見て望ましい状況である。各国がこれをどのように実現しているのか、現状に至るまでに優先順位をどう置いてきたのか、現在の課題は何なのかなどを抽出し、学ぶべきは学ぶというアプローチは有効だろう。さらに、これらの国々の共通項が抽出できれば、それは示唆に富むものになろう。
 筆者はこれまでフランス、スウェーデン、ドイツ、イギリスについてしばしば取り上げてきたが、改めてデンマークやアイルランドにも着目していきたい。デンマークもアイルランドも人口は500万人台で、日本でいえば千葉県より少なく兵庫県と近い規模であることからすれば、独自の政策を検討しうる地方自治体にとっても参考になると考えられる。
図表3 右上の象限に位置した国々

出所:筆者作成


参考文献
・ユニセフ・イノチェンティ研究所[2020].“Report Card 16 2020”の日本語版、
 公益財団法人日本ユニセフ協会訳『イノチェンティ レポートカード16 子どもたちに影響する世界
 先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か』
・世界銀行ウェブサイト Fertility. DP_LIVE_06072023073050172. 2020年の値。
・世界経済フォーラム[2020].“Global Gender Gap Repot 2020”
・村上芽[2023]「少子化対策の目的を見直し、人口政策と生きやすさのための政策の立案を」
・村上芽[2019]『少子化する世界』日本経済新聞出版社。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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