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JRIレビュー Vol.7,No.110

農産物の多様な価値を表現・伝達する「農産物の価値伝達システム」の活用

2023年08月31日 前田佳栄


農業の収益性向上には、売上増加とコスト削減の二つの手段があり、前者では、販売単価の向上が課題となる。販売単価向上の鍵となるのが、農産物の価値に関する適切な情報提供である。有機農産物を対象とした先行研究では、消費者が提示された情報を正しく理解することで、製品やサービスに対して消費者が自ら喜んで支払う価格を表す支払意思額が高まるという結果が示されている。

現在の農産物の規格は、階級・等級などの外観を対象とするものと、有機農産物の認証やGAP認証などの栽培方法や農業者の取組を対象とするものに大別される。外観による規格では、可食部に腐敗などがあるものを除くことは必要だが、見た目をきれいに揃えるだけでは差別化は困難であり、単価向上の伴わない過度な選別は農業経営に悪影響を及ぼすリスクがある。外観が規格の範囲内かどうかという二者択一的な基準から、農産物の本質的な価値に基づく基準へ変えていくことが重要である。

農産物の販売価格向上に向けては、農産物の多様な価値を表現・伝達できるように、既存の規格を補完する情報を付与することが有効である。食味・栄養・機能性などの農産物の本来の使用価値を示す情報に加え、多様化、高度化する消費者ニーズに応えるために、地域や環境の価値なども含めた多角的な情報が必要となる。

農業現場では、農産物の価値の源泉となる情報が多数存在している。スマート農業の導入により農作物の生産に関する作業履歴や栽培環境などのデータが蓄積され始めているほか、民間企業、大学、研究機関などでは内部障害の有無、食味、鮮度などの新たな計測・予測技術の研究などが進められている。これらの知見を活用することで農産物の様々な価値を伝えることが可能になる。

農業者の手間を省き、効率的に農産物の価値を伝達するためには、品目や用途に合わせて情報を取捨選択し、消費者に分かりやすく伝えられる仕組みが求められる。そのためには、既存の情報を集約した「農産物の価値伝達システム」を新たに構築することが有効である。農産物の価値伝達システムは、価値伝達サービス事業者、システム連携、評価基準の三つの要素により構成される。

農産物の価値伝達システムの利用による農業経営の効果として、販売価格の向上がある。また、付随的な効果として、固定ファンの獲得による販売量の安定化、マッチングの高度化による販売ロスの低減、消費者からの評価の把握による農業経営の改善の3点が挙げられる。眠っているデータを活用し、農産物の価値を表現することで、農業経営を一段上のステージに引き上げることが可能となる。

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