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アジア・マンスリー 2023年9月号

東南アジアのデジタル化をけん引する中国IT企業

2023年08月28日 岩崎薫里


東南アジアのデジタル化に中国IT企業が大きく貢献している。母国市場で培った技術やノウハウを強みに、様々なデジタル製品・サービスやデジタルインフラの提供に乗り出している。

■東南アジアのデジタル化と中国IT企業
東南アジアでは、買い物から決済やコミュニケーションに至る社会の広範な領域でデジタル化が進んでいるが、新型コロナ禍の発生を契機にこの流れが加速している。デジタル化をけん引しているのは、地場のスタートアップに加えて中国IT企業である。

 まず、2010年代に中国ブランドの格安スマートフォンが販売され、東南アジアでのスマートフォンの普及に大きく貢献した。同時に、スマートフォンでの利用を前提とした、電子商取引(EC)をはじめとする各種インターネットサービスの登場を促すこととなった。中国ブランドは当初、先進国ブランドに比べて見劣りしていたものの、価格を抑えつつ性能や機能を徐々に向上させていき、現在も東南アジアで好調な売れ行きを維持している。

 EC分野では、中国大手IT企業が2016年に、当時トップシェアを誇った地場のスタートアップを買収し、ブランド名をそのまま維持する形で事業を展開してきた。数多くの企業が東南アジアのEC市場に参入し、熾烈な競争が繰り広げられているが、この中国系ブランドは親会社からの複数回にわたる資本注入に支えられて、シェア上位を維持している。最近では、別の中国大手IT企業が東南アジアのEC市場に参入し、中国勢同士でのシェア争いに発展している。

 中国IT企業は、東南アジアで直接デジタル関連事業を展開するばかりでなく、地場スタートアップへの投資も積極的に行ってきた。主要な地場スタートアップの多くには、中国IT企業の投資資金が入っている。地場スタートアップとしても、資金だけでなく様々な技術やノウハウの提供を受けることができる点に、中国IT企業からの資金受け入れのメリットを感じている模様である。

東南アジア各国政府でも、自国のデジタル化を推進するに際して中国IT企業の協力を仰ぐ事例が相次いでいる。5G(第5世代移動通信システム)の商用サービスが2010年代末以降、世界的に始まるなか、中国通信機器大手が東南アジア各国政府と連携し、基地局の整備やネットワークの構築に取り組んでいるのがその好例である。当該中国企業はそれを足掛かりに、各種の5Gサービスの提供にも乗り出している。

ほかにも、データセンターの建設やスマートシティの開発において、中国IT企業が各国政府と連携して進める動きがしばしばみられるようになった。かつて、中国IT企業の競争力は総じて価格面にあったものの、次第に技術レベルが高まり、分野によっては先進国のIT企業と遜色ない、あるいは上回るレベルに達している。これを映じて、連携の動きはデジタル化政策の助言、IT人材の育成、中小企業の越境EC支援などにまで及んでいる。

■中国系デジタル・ブランドへの消費者の支持
東南アジアでのデジタル化に中国IT企業が大きな役割を果たしていることは、消費者の人気ブランド調査にも表れている。東南アジア主要6カ国の消費者を対象としたアンケートを基に集計された人気ブランド・トップ50(広告専門誌Campaign Asia-Pacific公表)のうち、16社がデジタル関連であった(次頁表)。トップ10に限れば、デジタル関連は6社に上る。EC、配車アプリ、ソーシャルメディア、スマートフォンなどの企業が並び、その多くは2000年以降に設立されている。東南アジアでデジタル関連の新興企業が台頭していることが示唆される。

トップ50に入った中国系企業は6社であり、そのうちデジタル関連が5社とほとんどを占める。新興の中国系ブランドが消費者に支持されていることが確認できる。これと対照的なのが米国と欧州の企業である。米国系および欧州系はそれぞれ16社、14社と多いものの、デジタル関連は4社、2社と限られ、それ以外が中心を占める。なお、日本企業はトップ50のなかに4社がランクインしているが、そのなかにデジタル関連は1社も含まれない。

■豊富な資金力と中国で培った技術・ノウハウが強み
外国企業のなかで中国勢が東南アジアのデジタル化の主な担い手になれたのはなぜか。この要因としてまず、母国市場で成功して巨大化した中国IT企業が、東南アジアへの進出に際し資金を豊富に投じることができた点が挙げられる。豊富な資金力はとりわけ地場スタートアップの買収や投資で威力を発揮している。それに加えて、母国市場で培った高い技術やノウハウを東南アジア市場の開拓で活用できている点も大きい。こうした背景には、中国でデジタル化が進み、その立役者であるIT企業が大きく育ち、それが中国や近隣国のデジタル化をさらに推し進める、という拡大的な好循環が実現されてきたことが挙げられる。

 一方、中国IT企業が東南アジアに注力している要因として、この地域のポテンシャルの高さへの期待に加えて、中国国内市場が成熟し一段の成長余地が小さくなりつつあるなか、海外に活路を見いだしていることも指摘できる。米中対立や印中対立のあおりで新たに進出するのが難しい国が増えるなか、そうした影響が比較的小さい東南アジアが着目されているという面もある。このような事情を踏まえると、中国IT企業の東南アジア進出は今後一層進むことが見込まれる。

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