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公的医療保険制度の持続可能性に関する国民調査の結果を受けて

2023年08月31日 「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」、土屋敦司青山温子富田奈央子川崎真規


 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム(以下、研究チーム)は、「健康・医療政策コンソーシアム」(※1)の活動として、公的保険医療保険制度の持続可能性に関する議論を深めるため、国民調査を実施した。

 本調査結果は、以下からご覧になれます。
 調査結果概要(プレゼンテーション資料)、Outline of Survey Results(English version、英訳版)
 調査結果(文章)  

【調査背景・目的】
 新型コロナウイルスによるパンデミックによって、国民や患者は医療提供体制が逼迫することを経験した(※2)。また、海外の新しい薬が日本に入ってくるのが遅れる、または入ってこないという”ドラッグラグ・ドラッグロス“の課題にも焦点が当たった(※3)。その中で、”医療提供体制”がどうあるべきか、国民や患者の問題意識が高まったと考える(※4)
 さらに、公的医療保険料の負担割合は上昇している(※5)一方で、借金(赤字国債)を医療費の財源として充てており、将来世代に負担を先送りしている状況である(※6)。このような状況を一刻も早く是正するためにも、”給付と負担”のバランスについて不断の検討が必要である。
 そこで、研究チームは”医療提供体制”、”給付と負担”および“ドラッグラグ・ドラッグロス”の観点で、国民が期待していることなどを定量的に把握し、議論を深めるために、本調査を実施した。

【調査結果の要点】
●現在、国民の81%が医師の診療に満足している。しかし、現在、過労死ラインを越えて働く医師は一定以上おり、医師の働き方改革は待ったなしの状態である。これに対して、多くの国民は医師の業務負荷軽減に協力したいと考えている。
▻特に、「健康維持」や「医療情報の共有」に協力することで医師への業務負荷を軽減したいという声が多数上がった。
▻医師の業務負荷を軽減するため、家族の状況も相談できるなど、国が提唱する役割を担うかかりつけ医を持つことが推奨されている。しかし、国民の多くはそのようなかかりつけ医を持っていないことが明らかになった

●71%の国民は、公的医療保険制度を維持するにあたって、政府が「医療情報の連携」「安価な治療方法の推奨」「重症化予防の推進」といった医療の効率化に取り組むことを前提に、国民の負担増を議論してよいと考えている。
▻このような医療の効率化に取り組んでいるという前提において、増加する負担は高齢者を含む国民全体で引き受け、高齢者の負担は預貯金などの金融資産の保有状況もふまえて検討すべき、という意見が多く挙げられた。
▻給付の見直しについては、国民の約半数が湿布、塗り薬および解熱剤などの市販薬として入手可能な薬を、公的医療保険の対象から外すべき、と考えている。
希少疾患やがんなど生命に危険が及ぶ病気の薬は公的医療保険の対象とすべき、という声が70%を超える。

●海外に遅れることなく、最新の薬を公的医療保険の範囲で使いたいという国民の声が多いものの、現在起きているドラッグラグ・ドラッグロスの問題を国民の約75%が知らない現状が明らかになった。


(※1) 健康・医療政策コンソーシアム:持続可能で質の高い医療提供体制を構築することなどを目的に、医薬・医療機器の業界団体や医療・IT関連企業、医師が所属する学会、医療や経済の専門家、そして患者団体などと共に設立した研究会。健康・医療政策コンソーシアム」設立について(ニュースリリース/2022年7月12日)
(※2) 内閣官房 新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議「新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に向けた中長期的な課題について」(2022年6月15日)を参照。
(※3) 厚生労働省 社会保障審議会医療部会「医療提供体制の改革に関する意見」(2022年12月28日)を参照。
(※4) 厚生労働省 医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会 報告書」(2023年6月9日を参照。
(※5) 厚生労働省 第159回社会保障審議会医療保険部会「医療保険制度改革について(参考資料)」(2022年12月1日)を参照。
(※6) 財務省「これからの日本のために財政を考える」(2023年)を参照。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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