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【日本総研 サステナビリティ・人的資本 情報開示状況調査(2023年度)】
第1回 調査の背景・概要

2023年07月20日 國澤勇人太田康尚、方山大地、佐久間瑞希、髙橋千亜希瓜生務


1.はじめに
 近年、世界的にESG(環境・社会・ガバナンス)への関心が高まっており、企業活動においてもESGの視点を取り入れたサステナビリティ経営・人的資本経営の考え方が無視できない状況となっている。
 こうした関心の高まりにあわせて、日本においてもこの数年、サステナビリティ・人的資本の情報開示についての議論も進んできたところである。一例を紹介するならば、気候変動分野では、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のフレームワークが広く活用されており、サステナビリティ開示全般としては、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、2023年6月にサステナビリティ開示基準のIFRS S1 号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」とIFRS S2号「気候関連開示」を公表したところである。また、人的資本の開示については国際標準化機構(ISO)がHuman Resource Managementに関して、社内で議論すべき指標、社外へ公開すべき指標を2018年12月に「ISO 30414」として公表している。その他、サステナビリティ・人的資本に共通するものとして、2021年6月に公表された改訂版「コーポレートガバナンス・コード」においても、上場企業の取締役会に対して「サステナビリティを巡る課題への取り組み」が求められるようになったところである。
 こうした背景の下、金融庁の審議会の一つである金融審議会では、ディスクロージャーワーキング・グループを設置し、有価証券報告書等においてサステナビリティ情報の記載欄を創設する旨の提言がなされた。この提言をふまえ、2023年1月に企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「内閣府令」)が改正され、有価証券報告書等の記載事項について以下の改正がなされたところである(※1)

◆サステナビリティに関する企業の取り組みの開示について

・有価証券報告書等に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、「ガバナンス」および「リスク管理」については、必須記載事項とし、「戦略」および「指標及び目標」については、重要性に応じて記載を求める

・サステナビリティ情報を有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、サステナビリティ情報の「記載欄」において当該他の箇所の記載を参照できる


◆人的資本、多様性に関する開示について

・人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針および当該方針に関する指標の内容等について、必須記載事項として、サステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」と「指標及び目標」において記載を求める

・女性活躍推進法等に基づき、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」、「男女間賃金格差」を公表している会社およびその連結子会社に対して、これらの指標を有価証券報告書等においても記載を求める

・これらの指標を記載するに当たって、任意で追加的な情報を記載することが可能であること、サステナビリティ記載欄の「指標及び目標」における実績値にこれらの指標の記載は省略可能であること、男女間賃金格差および男性育児休業取得率を記載するに当たって注記すべき内容について、開示ガイドラインにおいて明確化する


◆サステナビリティ情報の開示における考え方および望ましい開示に向けた取り組みについて

・重要性に応じて記載が求められる「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待される

・気候変動対応が重要である場合、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の枠で開示することとすべきであり、GHG排出量について、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、Scope1・Scope2のGHG排出量については、積極的な開示が期待される

・「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努める


2.本調査の概要・意義
 改正後の内閣府令は、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用される。今回実施する「日本総研 サステナビリティ・人的資本 情報開示状況調査(2023年度)」(以下「本調査」)では、以下のように調査した。

◆調査対象企業

・2022年10月31日時点のTOPIX100企業(※2)のうち、2023年3月31日に直近の事業年度が終了する80社

◆調査内容

・2023年3月31日に終了する事業年度に係る有価証券報告書のサステナビリティ・人的資本に関する記載


 調査対象企業をTOPIX100企業と定めたのは、これらの企業はかねてより各種情報開示が充実している傾向にあり、調査によってより多くの示唆が得られると思われるためである。
 また、調査内容は、2023年3月31日に終了する事業年度に係る有価証券報告書の記載事項に限定している。この点、単にサステナビリティ・人的資本の情報開示内容を調査するのであれば、あえて有価証券報告書に限定して調査を行う必要はない。内閣府令改正以前より、各社の統合報告書やホームページ等で充実した開示を行っている企業も多く、こうした他の媒体を調査することで十分足りるものである。有価証券報告書についても、内閣府令改正以前より、「事業の状況」欄等を用いて、サステナビリティ・人的資本に関する情報を開示している企業もある。とは言え、これまでの開示は、明確なルールもなく、開示媒体や開示時期・更新頻度も各社によって異なるものである。このような異なる条件の下で比較・分析を行うよりも、一定のルールの下、同じ時期に開示された情報を調査した方が正確な分析であると言えよう。ゆえに有価証券報告書の改正点に限定した調査を行っている。

3.主要な調査項目
 今回は、筆者らがサステナビリティ経営・人的資本経営を支援する中で、実務的に課題となる点を中心に調査項目を設定している。主な調査項目は以下のとおりである。

◆サステナビリティ

・全体・・・合計ページ数、掲載ページ数、図表の活用状況、マテリアリティ数、マテリアリティの名称

・ガバナンス・・・取締役会への報告頻度、サステナビリティ関連委員会の有無

・戦略・・・シナリオ分析、長期戦略、リスク・機会に関する内容

・リスク管理・・・リスク管理の会議体名称、リスク管理プロセス

・指標と目標・・・ GHG排出量に関する目標・実績、環境に関する目標・実績、社会に関する目標・実績


その他、主要なキーワードについて記載の有無を確認している(TCFD、人権等)。


◆人的資本(※3)

・人的資本全体・・・記載パターン、全体像の図示の有無、記載分量

・方針・・・人材育成方針・社内環境整備方針の区分の有無、人材育成方針の項目、社内環境整備方針の項目、両方針の連結/単体の記載の別、指標の定義、指標の連携/単体の記載の別、指標の種類、指標の実績値、指標の目標値、指標の目標年数

・多様性指標・・・男女間賃金差異の雇用管理区分数・雇用管理区分名・各雇用管理区分における差異、女性管理職比率の実績値、男性育児休業取得率の雇用管理区分数・管理区分名・実績値、提出会社と連結子会社の採用指標の差異


 以降、複数回に分けて、サステナビリティ・人的資本それぞれについて本調査の結果を紹介したい。まず、サステナビリティ・人的資本について、各調査項目の主なポイントを概説する。その後は調査項目では測れないような定性的な記載事項、好事例等についても参考事例として紹介する予定である(※4)


(※1) 金融庁ホームページ「『企業内容等の開示に関する内閣府令』等の改正案に対するパブリックコメントの結果等についてをもとに日本総研が整理(参照2023年7月18日)
(※2) https://www.jpx.co.jp/news/1030/nlsgeu000006ofa8-att/TOPIX100leaflet.pdf
(※3) 人的資本の調査については、有価証券報告書のうち「サステナビリティに関する考え方・取組」「従業員の状況」欄のみを対象としている。
(※4) 調査項目を含め、本稿執筆時点での予定であり、変更となる場合がある。

以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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