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進むインフラの老朽化と今後求められる対策

2023年07月25日 石川智優


 今年も大雨による災害が後を絶ちません。7月上旬から中旬にかけて九州北部や中国地方、東北地方など各地で記録的な大雨、またそれによる洪水被害や土砂災害が発生しています。私自身の親戚も今回災害が発生した地域に住んでおり、直接の被害はなかったものの、送られてきた現地の様子を撮影した動画から、雨の凄まじさに恐怖を覚えました。そして一歩間違えれば命の危険があることは一目瞭然でした。今回のような豪雨による人命被害を最小限に食い止めるには、事前避難が最も効果的であることも広く知られてきました。

 一方で、事前に可能な限り防災、減災策を講じておくことも必要です。水害対策に限らず、防災や減災を考える上で社会インフラの機能維持が重要となるのは言うまでもありません。他方で、高度成長期以降に整備された道路橋やトンネル、河川管理施設、下水道管渠、港湾施設などについて、今後、建設から50年以上を経過する施設が急速に増加することが予測されています。たとえば、2040年時点では河川管理施設の約38%、港湾施設の約66%、道路橋の約75%が建設後50年以上を経過することになります。インフラの老朽化は機能を損なうだけでなく、崩落など事故の原因にもなり得るため、適切に維持管理していくことは急務です。ところが、多くの施設は地方自治体(都道府県や市区町村)により管理されていますが、維持管理費にあてられる財源は1993年度の約11.5兆円をピークに減少し、現在はピーク時の約半分の予算で対応しているに過ぎません。加えて、地方自治体における技術系職員も減少傾向にあり、技術系職員が5名以下の市町村が全体の約5割を占めているのです。

 上記をまとめるとインフラ老朽化の課題は、維持管理にあてる財源不足、技術系職員の減少、の大きく2つとなります。これらの課題に対処して初めて、既設インフラの維持管理や、中長期的に防災・減災への貢献が実現することになりますが、現実には、一朝一夕で対応できるような課題ではありません。

 まず、維持管理費の財源については、人口減少、少子高齢化が進む日本において財源を増加させることは難しく、支出する維持管理費を可能な限り少なくする方向で検討が進められています。具体的には、施設に不具合が生じてから対策を行う事後保全から、施設に不具合が生じる前に対策を行う予防保全への転換により、増加が見込まれる維持管理・更新費の縮減を図る取り組みが進められています。また、機能転換を行うインフラの集約・再編・廃止を推進し、インフラストックを最適化する方針も検討されています。
 ただ、確かに自治体においてインフラ維持管理にあてる財源を維持、増加させることは今後難しいとはいうものの、自治体内の財源ではなく、外部資金を活用することで維持管理費を捻出する検討の余地はあります。たとえば河川管理施設であるダムについては、「既設ダムへの投資を呼び込む施策」で述べたように、ダムの多目的利用を推進することで新たな民間投資を呼び込み、結果的に維持管理費が捻出される仕組みなどが考えられます。このように、官民連携の新たなスキームを導入することが持続可能な社会インフラを構築する可能性はありうるのです。
 また、技術系職員の減少への対策については、研修による人材育成の推進や新技術の活用促進、データベースの整備などが進められています。研修による人材育成では施設管理者の技術力向上、新技術の活用促進やデータベースの整備ではインフラの点検・診断などにおける業務の効率化が狙いとされています。ただ、技術系職員の能力向上や業務効率化に加え、新たな人材の確保も必要です。上述のダムへの民間投資の呼び込みと同様に、官民が関わる形でSPC(特別目的会社)を設立し、運営を担わせることで、自治体職員だけでの運営に閉じず、民間企業における専門人材との連携推進を図ることも可能となります。

 人口減少、少子高齢化などが進む日本におけるインフラの維持管理には様々な困難が予想されますが、これまで官民連携が発想されなかったインフラについても、今後は投資や専門人材の交流など様々な形で連携を推進していくことが重要となるでしょう。

〈参考文献〉
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanminrenkei/content/001584616.pdf


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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