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主観的幸福感(主観的厚生 / subjective well-being)に影響を及ぼす要因の分析

2023年07月13日 菅章


背景
 昨今、経済成長に伴う物質的な豊かさ・利便性の向上が頭打ち、あるいは鈍化している中で、精神的・主観的な幸福感に対する注目度が高まっている。学術的には「主観的厚生」(subjective well-beingの訳語)とも呼ばれている主観的幸福感の概念は、政府が掲げるデジタル田園都市国家構想の中でも「心ゆたかな暮らし(Well-being)」としてキーワードに設定されており、一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発したLiveable Well-Being City指標(LWC指標)においても主観的幸福感指標(心の因子)がその中核に添えられる等、行政やまちづくりの観点からも重視されるようになっている。

 このような状況下、図表1で示す通り地方自治体においても主観的幸福感をKGI(Key Goal Indicator)の一つと捉え、主観的幸福感を目的変数とする一方、政策領域別の実感・満足度や客観指標を説明変数とする独自の指標群を構築し、政策領域別の政策評価、政策立案に活用する動きも見られており、主観的幸福感に影響を及ぼす要因についての関心が高まっている。



「アフターコロナを見据えた少子化対策等のための未婚者の実態調査」結果を用いた分析
 本稿では、2021年6月に行われた「アフターコロナを見据えた少子化対策等のための未婚者の実態調査」(以下、本調査)の結果を用いて、主観的幸福感に影響を及ぼす要因の手がかりを探った。本調査では全国の20~49歳の男女(未婚者・既婚者)を対象に、主観的幸福感や行動特性(リスク回避度や特性的自己効力感(※1)等)、各種基礎属性、就労状況、経済状況、生活実態等の項目を聴取しており、主観的幸福感と各項目の関係性を一定分析することが可能となっている。

【調査概要】※本調査の詳細は添付の報告書を参照
調査方法:インターネット調査
調査対象者:全国の20~49歳の男女(未婚者・既婚者)
回答数:有効回答数6,074人(回収率15.4%)
調査協力:株式会社エウレカ

【互いに相関関係にある項目が多く、因果関係は不明瞭】
 まず、主観的幸福感(※2)と各項目との相関係数を図表2に示す。趣味時間を除き、いずれの項目も主観的幸福感との相関関係は1%有意となっているが、各項目は互いに相関関係にあるものも多く、相関分析結果だけでは因果関係は不明瞭となっている。



【未既婚・性別・雇用形態別に主観的幸福感を分析する必要性が示唆された】
 そこで、特定の項目が主観的幸福感に及ぼす影響をクリアに推定するため、主観的幸福感を目的変数、各項目を説明変数とした重回帰分析を行った。なお、主観的幸福感は連続変数ではなく3分類以上の順序変数であるため、ここでは順序ロジスティック回帰分析の手法を選択している。

 主観的幸福感を目的変数、各項目を説明変数とした順序ロジスティック回帰分析の結果を図表3に示す。未既婚、性別、雇用形態については推定係数が比較的大きく、主観的幸福感について分析する際は、これらの項目を統制変数として説明変数に組み込む、あるいはサブグループに分けて分析する(未婚者・既婚者別々に分析する等)、といった処理を行う必要性が高いことが示唆された。また、リスク回避度や特性的自己効力感のような行動特性が主観的幸福感にわずかながら影響を及ぼしていることも示唆されており、主観的幸福感の分析にあたっては、これらの行動特性が及ぼす影響も加味する必要があると考えられる。

 一方で、個人年収については本分析では比較的小さい推定係数となったが、これは既婚者については個人年収ではなく世帯年収が主観的幸福感に大きな影響を及ぼすと思われることや、個人年収の絶対的な水準だけでなく、自身と似た属性の他人の所得水準と比べた相対的な水準も主観的幸福感に影響を及ぼすと考えられていること(いわゆる相対所得仮説)等が原因として考えられる。

 また、居住地に関しては本分析では有意な関係が見られなかったが、これは都道府県レベルで都市部と地方部を定義した上での比較であり、実際は住んでいる地域におけるさまざまな環境要素が主観的幸福感に影響を及ぼすものと考えられる。

 加えて、本分析では回答時点の主観的幸福感を対象としているが、その時点の主観的幸福感は近い過去におけるトラウマ的経験の有無等に影響を受けることもあり、そうした経験の有無を(統制変数として)制御する、あるいは主観的幸福感を過去・現在・未来にわたって聴取する等の工夫も必要であるとも考えられる。



まとめ
 本稿では、2021年6月に行われた「アフターコロナを見据えた少子化対策等のための未婚者の実態調査」の結果を用いて、順序ロジスティック回帰分析により、主観的幸福感に影響を及ぼす要因の手がかりを探った。主観的幸福感は行政やまちづくりの観点からも重視され始めており、地方自治体においても主観的幸福感をKGIの一つと捉えて政策評価・政策立案に活用する動きも見られるが、ここまで見てきた通り、主観的幸福感はさまざまな要因が複雑に関係し合いながら変動する指標であり、その特性・特徴を理解せずに推移を追ってしまうと、数字に振り回されることにもなりかねないことがうかがえる。今後、主観的幸福感を中心とする因果関係の分析・研究はますますその重要性を高めていくものと思料する。

★参考資料:各項目の設問文、選択肢

(※1) 「自身が必要な行動を計画・実行できると感じる度合」である自己効力感のうち、具体的な個々の課題・状況に依存せず、より長期的・一般的な日常場面における行動についての効力感を指す。
(※2) 主観的幸福感は以下の設問で聴取した:全てを統合してあなたはどれくらい幸せだと思いますか?「10点:非常に幸せだ」~「1点:全く幸せではない」の間でお答えください。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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