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RIVASITE で「河川の営利化」は進むか? ~河川の賑わい創出と管理効率化との両立に向けて~

2023年05月22日 山口尚之


RIVASITE が始動
 令和5年2月28日に国土交通省ウェブサイトにおいて、RIVASITE の始動がプレスリリースされた(※1)。これは、地域活性化と河川管理効率化の両立を目的に、河川敷地の占用に関する規制緩和と、占用可能な敷地情報の発信という二つの取り組みを行うものだ。
 前者の規制緩和は、占用区域外の清掃・除草等に協力することを条件に、占用期間・占用範囲の拡大を認めるものである。言い換えれば、河川管理に協力してくれれば河川敷地での営利活動を認めてくれる、ということだ。その発想は、収益を公園管理に還元することを条件に都市公園内の営利施設設置に特例を認める、公募設置管理制度(Park-PFI)と類似している。
 後者の情報発信は、各河川の国管理区間のうち、堤防整備済みでかつ100㎡以上確保可能といった条件で抽出された河川裏(※2)のサイトをマッピングし、「ポテンシャルリスト」として公表したものである(※3)。いわば、河川に特化した「事業用不動産紹介データベース」だ。このポテンシャルリストでは、各サイトの立地や面積、現地写真といった基本的な情報がリスト化されており、令和5年4月現在で、全国の890件のサイトが登録されている。
 さて、この取り組みで地域活性化と河川管理効率化とを達成するには、そのサイトが民間事業者にとって魅力的であることが求められる。すなわち、多くの集客が見込める等の収益性が高いことと、河川管理負担や初期投資といったコストが小さいことが重要である。以下、収益性とコストの両面で、ポテンシャルリストで公開された河川敷地を評価する。

第一の課題「高コスト」
 まず事業コストの面で見ていく。ポテンシャルリストでは、各サイトの利用条件として、土地造成や障害物撤去の必要性等が明記されている。このうち、利用条件の記載がないものは、全体の4%にすぎない(図表1参照)。多くのサイトに1件以上の利用条件が付いており、全体の約2割は、2件以上の「条件付き土地」ということになる。



 利用条件には、「埋設物の移設が必要」や「排水処理が必要」といった特別の処置を求めているもの、「杭構造は不可」「自動車の進入不可」といった制約があるもの等があるが、特に利用条件として最も多いのは「盛り土による土地造成が必要」であり、全体の実に81%が該当する。このことから、たとえ民間事業者が設置する施設が小規模・簡易的なものであったとしても、多くの場合において造成等の比較的規模の大きな土工が必要となり、初期投資の増大要素となり得ることが見て取れる。

第二の課題「低収益性」
 次に収益面で考える。RIVASITE の目的として「更なる賑わい創出」とうたわれている以上、河川敷地を占用して実施される民間事業は、集客事業であることが前提となる。では、今回のポテンシャルリストに掲載されたサイトの近隣からの集客ポテンシャルがどの程度かを見ると、サイトの6割超が人口10万人未満の、いわゆる小都市に立地していることになる(図表2参照)。実際、ポテンシャルリストの航空写真を見ると、多くのサイトが広大な田畑や湿地等で囲まれており、近隣住民が気軽に訪れやすい市街地である場合は少ない。もちろん、集客事業の立地ポテンシャルは周辺人口のみで評価されるものではないが、RIVASITE の目的が「地域活性化」であるならば、近隣住民が日常的に訪れる場を想定しているはずであり、その観点では、これらのサイトが必ずしも収益性が高いとは言えないだろう。



民間が「占用したい」と思うサイトの発掘を
 以上のことから、ポテンシャルリストの公表によりこれらのサイトに魅力を感じ、事業投資に乗り出す事業者がすぐさま増加することは、現時点で大きくは期待しにくい。
 では、今後どのような改善策が考えられるだろうか。
 現状のポテンシャルリストは、民間の投資意欲は脇に置いて、まずは占用できる・・・場所を抽出することに焦点を当てていた。しかしいくら掲載するサイト数を増やしたところで、収益事業としての魅力が小さければ、情報提供の効果は十分に発揮されない。これから取り組むべきは、占用したいと思われる・・・・・・・・場所を抽出し、仮にその場所が占用に適していなければ、どうすれば占用可能となるか、どのような条件を付せば占用を許容できるかを積極的に検討するといった、民間の立場に合わせた検討と情報発信が求められる。
 その具体的なアプローチとして、第一に、国以外の自治体が管理する河川についても、ポテンシャルリストの対象として広げ、占用可能なサイトを掘り起こすことが考えられる。一般的に自治体が管理する河川は国の管理区間と比較して、市街地等の人口の多い地域を流れる場合が多く、集客事業としてのポテンシャルがより大きいサイトを抽出できると期待される。河川敷地での賑わい創出の成功事例として知られ、令和4年度の「かわまち大賞」を受賞した、盛岡市が管理する木伏きっぷし緑地での集客施設整備(※4)も、JR盛岡駅から徒歩数分という立地ポテンシャルが背景にあった。今後、RIVASITE の取り組みを国の河川管理事務所から自治体にまで拡大していくことで、ポテンシャルリストでの情報発信の効果がより大きくなるだろう。
 第二のアプローチとして、対象サイトを河川裏以外の高水敷こうすいしき(※5)等にも広げていくことが考えられる。今回公開されたポテンシャルリストの掲載対象は、堤防よりも水から離れた河川裏のサイトのみだったが、河川の魅力を生かした集客を考えるならば、水際により近い敷地のほうが有利だと考えられる。また、河川裏はいわゆる「土手」のイメージの通り、傾斜地である場合が多い。それに対し高水敷のほうが平坦で広い面積を確保しやすいことも、事業の初期費用削減として有効だ。今後は高水敷も含めて、集客性を期待できるサイトをより幅広く発掘していくことが求められる。

新技術の活用による、賑わい創出と防災との両立
 しかし、対象サイトを高水敷等に広げていくと、新たな課題が生じる。防災等の治水機能とのトレードオフだ。
 河川には、洪水時でも水を安全に流下させ氾濫を防ぐという「治水」や、農業・工業等に利用する水を絶えることなく供給し続ける「利水」といった、人々の生活基盤に直結する重要な役割を担っている。しかし、高水敷等の水際に賑わい創出のための集客施設を設置する「親水」機能の拡充によって、人々が災害に遭遇するリスクが増大する、あるいは河川水の流下を妨げる等の、治水機能の阻害が懸念される。高水敷等への施設設置要件を定めた「河川敷地占用許可準則(※6)」でも、スポーツ・レクリエーション等の「地域住民の福利厚生のために利用する施設」の設置を許容しつつ、「河川敷地の占用は、治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない。」と注記されている。実際、現状の高水敷の利用用途として見られるものは、ゴルフ場やテニスコートのベンチ・ポールといった、洪水時に水の流下を大きく妨げないものに限られている。
 これらの新たな課題に対しては、新技術の発展に期待が持てる。気象予報技術の精度は年々向上し、ゲリラ豪雨による突発的な増水も、数時間や半日程度であれば危険性を事前に把握しやすくなった。また建築技術のユニット化・軽量化・高性能化も進み、多様な規模・用途の施設を、ごく短期間で設置・撤去可能となってきている。米国ニューヨーク市の防災プロジェクト“BIG-U”(※7)では、水辺公園内の施設が増水時に瞬時に変形することで、公園を調節池(※8)のように活用する技術が検討されていた。これらの新技術を組み合わせることによって、水際に集客施設を設置し賑わいの空間を創出しつつも、洪水リスクが高まれば迅速に撤去または可動し水の流下を阻害しないといった弾力的な運用が、将来的に実現可能となるかもしれない。
 現時点ではポテンシャルリストの公開情報が限定的であるため、RIVASITE の取り組み効果が十分発揮できていない側面もあるだろうが、今後の検討・発信の拡充によって、河川の治水・利水・親水を三位一体で実現していくことが期待される。

(※1)  国土交通省ウェブサイト「河川敷地の更なる規制緩和で地域活性化! ~民間事業者の参入を促進する“RIVASITE”を始動~(令和5年2月28日プレスリリース)
(※2) 堤防を境にして、水が流れている反対側の敷地を指す。川(かわ)裏(うら)ともいう。堤防の天端(上端)から背後の住宅地・農地等に向かって、傾斜している場合が多い。反対に、水が流れている側を、川表(かわおもて)という。
   (参考)国土交通省ウェブサイト「用語解説:川表、川裏
(※3)  国土交通省ウェブサイト「河川敷地の民間等活用に資するポテンシャルリスト
(※4) 国土交通省ウェブサイト「かわまち大賞2022 住民参加の「かわ」の活用 ~観光客数も着実に増加~ 盛岡地区かわまちづくり(岩手県盛岡市、北上川水系 北上川・中津川)
(※5)  いわゆる河川敷のこと。平常時に水が流れる低水路と、堤防との間にある、平坦な敷地を指す。洪水時にはこの高水敷も流路となることで、市街地等への浸水を防ぐ。日本の比較的規模の大きな河川は、このように流路が低水路と高水敷の二段階に分かれる「複断面構造」をとる場合が多い。
   (参考)国土交通省ウェブサイト「用語解説:川表、川裏
(※6) 建設省,平成11年8月5日,通達(最終改正平成28年5月30日)
(※7) 2012年10月のハリケーン・サンディによる被害を契機とした、復興・防災プロジェクト。複数の設計提案の中で、増水時に「折りたたまれる」「変形して防潮堤の役割を果たす」といった、ハイブリッドな機能を持つ施設のアイデアが示された。現在、パイロットプロジェクトが進行中。
   (参考)PROJECT PAGES: THE BIG U
(※8) 洪水時に水の一部を一時的に貯留して、下流の水位を低下し氾濫を防ぐ敷地・施設をいう。
   (参考)国土交通省ウェブサイト「調節池の役割としくみ

以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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