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アジア・マンスリー 2023年5月号

厳しい局面が続く中国半導体産業

2023年04月27日 野木森稔


中国半導体産業の停滞が続いている。これには、シリコン・サイクルの悪化だけではなく、米国による対中半導体規制強化も影響している。世界の半導体需要が回復しても、生産は伸び悩む可能性がある。

■半導体市場は循環的な悪化局面
パソコンやスマートフォンなどハイテク製品の需要が世界的に停滞していることを受け、半導体市場では在庫が積み上がっている。コロナ禍で加速したデジタル化の動きや巣ごもり需要が一巡し、半導体を利用する製品を中心とした財への需要が外食などのサービスへシフトしたことが一因である。こうした状況を受けて、中国の半導体生産数量は2021年後半をピークに減少傾向が続いている。2022年前半にはゼロコロナ政策の影響で工場稼働率が急低下した時期もあったが、その後も回復の兆しがみえない。

半導体市場には、好不況の循環(シリコン・サイクル)があるため、在庫調整が進めば世界の半導体生産は持ち直しに向かうことが予想される。ただし、中国市場では、米国による対中半導体規制の強化が構造的な減産圧力となっており、他の国よりも回復への道のりは険しいことに注意する必要がある。

■米国による対中半導体規制強化が今後も下押し要因に
米中対立が過熱するなか、近年、米国は中国の半導体製造能力の拡大を阻止することを目的とした対中規制を強めてきた。2022年には、米国政府は新たにCHIPSプラス法を施行したほか、対中半導体関連輸出管理を強化することで、中国半導体産業への圧力を強めている。

CHIPSプラス法は、在中外資半導体企業に対して生産能力の拡大を強く制約する効果を持つ。同法では、今後5年間で米国に半導体製造設備を投資する半導体企業に対して、大規模な補助金を支給することが予定されている。2023年2月末に補助金申請の受け付けが開始され、米国企業だけでなく、TSMCやSamsungなどのアジア企業も受給対象候補の企業として名前が挙がっている。ただし、その補助金を受けた場合、ガードレール条項に従い、10年間にわたって中国での生産増強のための投資が制限され、先端半導体の生産拡張は5%まで、旧世代半導体は10%までに規制される。米調査会社IC Insightsよれば、中国の半導体自給率は16.7%(2021年)であるが、そのうち内資企業による寄与は6.6%しかなく、補助金受給対象候補を含む外資企業が残りの10.1%を占める。

2022年10月に強化された対中半導体関連輸出管理は、中国での半導体生産拡大を目的とした装置の確保を困難にする。この規制強化では、スーパーコンピュータやAIに使われる高性能半導体の輸出に加え、先端半導体を製造するための米国製装置の輸出が原則禁止となった。規制対象は先端品(16nm/14nm以下のロジック半導体、配線ハーフピッチが18nm以下のDRAMメモリ、128層以上のNANDフラッシュメモリ)であるが、先端半導体に使われる一部の部品も対象になるなど、その影響は幅広い製造過程に及ぶ可能性がある。

こうした輸出管理により、先端半導体を使ったハイテク製品の製造が難しくなることから、世界の工場としての中国の魅力は大きく低下するとみられる。現時点では、米国企業による製造装置が規制対象となっているが、日本は2023年7月から規制強化を開始するほか、オランダは新規制を2023年の夏までに公表するとしており、米国に追随する国が現れている。2022年の中国の半導体装置輸入のうち日本からの輸入が31%、米国が16%、オランダが14%であり、3カ国が揃って規制を強化することになれば中国への影響は大きくなる。

アジアの主要半導体製造地である韓国や台湾では、半導体市場が在庫調整局面にあるにもかかわらず、将来の需要増に備えた生産能力増強のため半導体製造装置の輸入を増やし続けている。一方、中国では、米国の規制強化の影響によって、すでに同装置輸入の減少が続いている。西側諸国の新たな規制強化を踏まえれば、中国にとって同装置の輸入はさらに減少する可能性が高く、中国国内で先端半導体の生産能力を増強することはより難しくなる。中国国内の製造装置メーカーは、世界的にみると依然として小規模であり、中国産装置で輸入品を代替することはかなり難しい。米国による規制強化の悪影響を回避することは難しく、先端半導体を中心に中国の半導体産業は大きな打撃を受け、その生産は当面伸び悩むと予想される。

■半導体産業強化策の見直しを迫られる中国政府
2015年5月、製造業の高度化を目的とした産業政策「中国製造2025」のなかで、中国政府は半導体自給率を2030 年までに 75%に引き上げるという計画を掲げていた。しかし、そのために組成された巨額の半導体ファンドでは、投資先企業の事業失敗が相次ぎ、ファンドの幹部数名が汚職容疑で逮捕されるなどの事態も生じている。半導体産業に必要な技術・人材の不足も問題となっており、現状のままでは目標達成はほぼ不可能である。米国による規制により半導体生産を巡る今後の状況はさらに悪化するとみられ、中国政府は半導体強国に向けた政策の大幅な見直しを迫られている。

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