コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

適切なケアマネジメント手法の策定、普及推進に向けた調査研究事業

2023年04月06日 辻本まりえ齊木大多田理紗子山内杏里彩山崎香織岩崎海大原慶久


*本事業は、令和4年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

■本稿は令和4年度に実施した調査研究事業の概要と成果をまとめたものです。
「適切なケアマネジメント手法の手引き」、「適切なケアマネジメント手法 実践研修」(令和4年度改訂版)は下記のリンク内に掲載しています。
 ・「適切なケアマネジメント手法の手引き」(PDF)
 ・「適切なケアマネジメント手法 実践研修」(令和4年度改訂版)

1.事業の目的
 社会保障審議会介護給付費分科会「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」(令和2年12月23日)では、「適切なケアマネジメント手法」に関して、今後は実効性が担保されるような方策の検討、疾患別に限られない手法の検討を行うよう盛り込まれた。
 「ニッポン一億総活躍プラン」で2026年度までと予定された「適切なケアマネジメント手法に関する調査研究」は、期別・疾患群別に「想定される支援内容」を整理することにより、将来の生活予測におけるケアマネジャーの知識水準を確保するとともに、多職種連携の推進を目的としている。令和2年度には、今後の全国的な普及・浸透を見据え、「わかりやすく」かつ「簡素化」するため、項目間の重複等を整理するなど基本ケアの充実を軸とした全体的な再整理を行い、「基本ケア」及び5つの「疾患別ケア」(脳血管疾患、大腿骨頸部骨折、心疾患、認知症、誤嚥性肺炎の予防)をとりまとめた。
 こういった背景を踏まえて、本調査研究事業は、「適切なケアマネジメント手法」の実践での活用に向け、令和3年度にモデル地域で試行した「適切なケアマネジメント手法 実践研修」の全国規模での有用性の検証を行うこと、地域のケアマネジメントに関わる関係者(ケアマネジャー、多職種、保険者、本人・家族など)向けの普及方策の検討及び検証を行うとともに、これまでに作成してきた手法の拡充(ケアマネジャーの実践的な活用に向けた手法開発、ケアマネジャー以外の関係者による手法の活用方法の検討)を行うこと、「課題分析標準項目」の実態把握及び課題の整理を行うことを目的として実施した。

2.事業の主な内容
(1) 全国を対象とした実践研修によるデータ検証
 令和3年度事業(適切なケアマネジメント手法の策定、普及推進に向けた調査研究事業)でモデル地域において試行的に実施した「適切なケアマネジメント手法 実践研修」の成果を踏まえ、より多くのケアマネジャーが本手法に触れる機会を設けるとともに、手法活用による効果検証を進めるため、全国規模で実証を行った。併せて、今後各地の団体・事業者等で自立的に実践研修を開催・実施できるよう、開催者側の検証も行った。
 実践研修は、厚生労働省の協力のもと全国に呼びかけ地域の職能団体等による開催団体を募り、その開催団体が参加者を募集する「開催団体枠」と、日本総研が直接参加者を募集する「日本総研枠」の2種類の開催方法を設けた。日本総研枠では、居住地域において開催団体枠の開催がない都道府県からの申し込みを優先的に受け付けることとし、参加の機会が全国で平等になるよう配慮した。開催団体は22団体であり、合計参加者は1,037名であった。

「適切なケアマネジメント手法」実践研修の全体像

(研修の流れ)
 参加者には、事前に今回の実践研修で対象とする事例を選定し、事前学習として手法に当てはめた自己点検を行ってもらった。
 第1回研修会では、「適切なケアマネジメント手法」の概要を手引き等の内容に沿って解説したのち、本調査研究事業の検討委員会及びワーキング・グループメンバーでもある国際医療福祉大学 教授 石山麗子氏が講師を務め、「事例の掘り下げ」についての講義を行った。
 研修会と研修会の間の期間を「現場実践」と位置づけ、講義を踏まえて事例に関する追加の情報収集や課題の整理等を参加者が各自で行った。「現場実践」は、第1回研修会後、第2回研修会後、第3回研修会後の計3回実施した。
 第2回研修会では、現場実践の結果をグループワークで共有し、グループの他のメンバーから助言等をもらった。第3回研修会、第4回研修会までの約5ヵ月間、同様に現場実践とグループワークを繰り返した。
 第4回研修会では、第3回研修会までと同様のグループワークに加えて、各地域から発表者を選出のうえ、実践研修を通した取り組み結果を全体に発表した。

(2) 普及・活用促進
 ①オンラインセミナーの開催

 手法の概要について解説する「適切なケアマネジメント手法 実践セミナー」(同様の内容を2回開催)、手法を活用した研修等の企画・運営について解説する「適切なケアマネジメント手法 研修担当者向けセミナー」(同様の内容を2回開催)、手法の基となる考え方の講義や実践研修の結果を報告する「適切なケアマネジメント手法 普及推進セミナー」を開催した。計5回のセミナーを開催し、アーカイブ動画も含めると延べ24,970人が視聴した。(令和5年3月24日時点)
 ②YouTube動画の作成・公開
 「適切なケアマネジメント手法 実践研修」の研修プログラム内で実施するグループワークの進め方や議論の様子を知ってもらうため、令和3年度の実践研修に参加した参加者によるデモ動画を作成した。第2回研修、第3回研修の計2本作成し、合計16,771回視聴されている。(令和5年3月24日時点)また、本事業で実施した実践研修の結果を踏まえた研修プログラムの取りまとめにおいて、第1回研修会で使用する講義動画を計2本追加で作成した(令和3年度事業で2本作成済み)。これらの動画は、合計6,466回視聴されている。(令和5年3月24日時点)
 加えて、「適切なケアマネジメント手法 実践セミナー」、「適切なケアマネジメント手法 研修担当者向けセミナー」、「適切なケアマネジメント手法 普及推進セミナー」についてもそれぞれアーカイブ動画を公開し、当日視聴と合わせて24,970回視聴されている。(令和5年4月24日時点)
 適切なケアマネジメント手法に関する動画再生リスト(日本総研公式YouTube)
 ③「適切なケアマネジメント手法の手引き」(冊子)の全国配布
「適切なケアマネジメント手法」の周知と理解促進を図るため、令和2年度に作成した「適切なケアマネジメント手法の手引き」(冊子)を全国に配布した。令和3年度事業においても配布を行っており、今年度事業と併せて約4.2万部を全国に配布している。
 ④ケアマネジャー向け普及状況調査
 「適切なケアマネジメント手法」の現在の普及状況や手法の実践での活用状況等をウェブアンケート調査にて調査した。ウェブ調査会社の現任の介護支援専門員1,000名を対象として実施した。
 ⑤他の職種向けの普及促進策の検討
 ケアマネジャー以外の自治体職員や他の職種等に適切なケアマネジメント手法を説明するため、「適切なケアマネジメント手法」に関する概要資料を取りまとめた。

(3) 「適切なケアマネジメント手法」の拡充
 ①より幅広い職種・事業者との連携円滑化のための知識(支援仮説)の拡充

 「より幅広い職種・事業者との連携円滑化のための知識(支援仮説)の拡充」については、手法検討ワーキング・グループにおいて議論を重ね、令和5年度以降の検討の方針を定めた。
 ②実践で活用するための手法(ツール)の検討
 「適切なケアマネジメント手法 実践研修」の実施により、適切なケアマネジメント手法を実践で活用するうえでの課題が明らかとなった。特に、経験の少ないケアマネジャーや初めて手法を活用する人の場合には、どのようなアクションをとれば良いか戸惑うことが多い傾向がみられた。
 これらの課題は、具体的なアクションにつなげるための知識が不足している、あるいは相談するための相手がいないことなどが原因と考えられる。実践研修は、手法を活用することで「想定される支援内容の仮説を持って、情報収集を行う」ことにフォーカスした研修であるが、情報収集のための具体的なアクションは参加者が自ら検討する必要がある。そのため、一定程度の経験を持ち合わせないと難しいという側面もある。
 前述のような状況を踏まえて、初任レベルのケアマネジャーや適切なケアマネジメント手法を初めて使うケアマネジャー向けに、「入門版」として活用できるツールとして、「実践チェックリスト」を検討した。

(4)課題分析標準項目の整理・検討
 課題分析標準項目は、「平成11年11月11日老企29号厚生省老人保健福祉局企画課長通知」において「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」として、「(別紙4)」で示された内容であり、介護保険制度の開始以降、大幅な見直しは行われていない。高齢者の状態増や高齢者を取り巻く環境の変化、LIFEの導入や法定研修のカリキュラム改定等が行われている状況も踏まえ、課題分析標準項目について、現在の実践との乖離や課題を整理したうえで、修正案の検討・作成を行った。

(5)検討委員会及びにおける確認・検討
 有識者や関係団体等と厚生労働省で構成する検討委員会を設置し、上記(1)~(4)の結果について共有および検討を行った。さらに、これまでの調査研究成果も踏まえ、令和5年度以降に取り組むべき課題についても議論し整理した。

3.事業の主要な成果
 令和4年度事業の主な成果は、①全国を対象とした実践研修によるデータ検証・研修プログラムの公開、②全国的な普及推進活動の実施、③適切なケアマネジメント手法の拡充方針の検討、④課題分析標準項目の修正案の検討である。

 (1)「適切なケアマネジメント手法 実践研修」の全国的実施、研修プログラムの公開
 「適切なケアマネジメント手法」実践研修は、自己学習ツール(手引きあるいは動画)を利用して基本的な理解を持ったうえで、全体研修において座学と個人ワーク(自らの実践の自己点検)を実施し、その後実践での情報収集等を行ったうえで、グループワークで実践での課題点や工夫の共有(グループスーパービジョン)を実施し、その成果を踏まえて全体研修に持ち寄って総括する構成である。
 令和3年度にモデル地域において試行的に行った研修の内容をブラッシュアップし、令和4年度「適切なケアマネジメント手法 実践研修」として、全国を対象に開催団体及び参加者を募集した。約1,000人が参加した。研修の結果を踏まえて「適切なケアマネジメント手法 実践研修」(令和4年度改訂版)を公開した。
 本事業で行った実践研修も、全体研修において座学と個人ワーク(自らの実践の自己点検)を実施し、その後は数ヵ月かけて実践での事例への手法の適用(現場実践)を行いながら、参加者同士での実践結果や課題の共有(グループスーパービジョン)を行い、その成果を全体研修に持ち寄って総括する構成とした。約5ヵ月間の研修の結果、①ケアマネジャー自身の気づきの効果、②支援内容(あるいはケアプラン)の見直しが進む効果、③本人や家族のエンパワメントにつながる効果、④多職種連携(情報の収集と共有)が加速することの効果が確認された。

 ①ケアマネジャー自身の気づきの効果
 自己点検や現場実践での情報の深掘りを通じて、自身のケアプラン作成時の見落としや視点の抜け漏れに気づく効果が確認された。研修実施前と比較すると、情報収集を実施した項目数が全体的に増加しており、「適切なケアマネジメント手法」を活用することで得た気づきが、視点の平準化につながったといえる。


 ②支援内容(あるいはケアプラン)の見直しが進む効果
 研修を通じて支援内容の変更に至った事例が69.6%、ケアプランの変更に至った事例が51.8%であった。研修の結果から、実践での手法の活用方法は複数あると考えられる。
 (A)手法のチェックリスト活用
 手法の想定される支援内容を、自己点検の際のチェックリストとして活用することで、視点の抜け漏れに気づくことができる。研修開始時に行う自己点検(想定される支援内容をチェックリストとして、視点の抜け漏れを確認する)の結果、支援の見直しが必要と判断し、支援内容(あるいはケアプラン)の変更に至った事例が8.7%であった。(「望む生活・暮らしの意向の把握」の項目の場合)
 (B)支援のための情報充実
 また、研修開始時の自己点検では現在の支援内容の見直しは不要と判断していても、研修を通じた情報収集の結果、支援内容(あるいはケアプラン)の変更に至った事例が15.6%であった。(「望む生活・暮らしの意向の把握」の項目の場合)



 ③本人や家族のエンパワメントにつながる効果
 研修後に参加者に行ったアンケート調査からは、研修を通じた利用者、家族や支援者の変化が挙げられた。特に「コミュニケーションが円滑になった」「本人の望む暮らしを意識するようになった」などの変化が多かった。研修はケアマネジャーを対象としたものであったが、参加したケアマネジャーによる利用者や家族等への働きかけ方が変わったことでこのような結果が得られたものと考えられる。


 ④多職種連携(情報の収集と共有)が加速することの効果
 研修を通じて、他の職種からの情報収集、他の職種への情報提供が加速する効果が確認された。一方で、「着目すべき視点はわかったが、具体的な働きかけ方がわからない」といった課題も明らかになった。

 (2)全国的な展開に向けた普及活動
 全国的な展開に向けた普及活動として、①オンラインセミナーの開催、②YouTube動画の作成・公開、③「適切なケアマネジメント手法の手引き」(冊子)の全国配布、④ケアマネジャー向け普及状況調査の実施、⑤他の職種向けの普及促進策の検討を行った。

 (3)「適切なケアマネジメント手法」の拡充方針の検討
 社会保障審議会介護給付費分科会「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」(令和2年12月23日)では、「適切なケアマネジメント手法」に関して、疾患別の適切なケアマネジメント手法に限られない方策の検討と、実効性が担保されるような方策の検討が盛り込まれた。これらを踏まえて、本事業では以下の2つの方向性について、検討を進めた。
 ①より広い職種・事業者との連携のための知識(支援仮説)の拡充
 「適切なケアマネジメント手法」が普及フェーズに入ったことを踏まえ、手法としてのバリエーションを増やすのではなく、「基本ケア」を中心に現手法をブラッシュアップし、2025年度改訂版を作成することを今後の検討方針とした。ブラッシュアップに際しては、①実践の蓄積から一般化された新たな知見の取り込み、②過去に参照したガイドライン、テキスト等の改訂の反映の視点で、令和5年度から検討を開始することとした。なお、①については、疾患によらない視点でのテーマを設定した上で検討を進めることとした。
 ②実践で活用するための手法(ツール)の検討
 「適切なケアマネジメント手法」の実践での活用において、経験の少ないケアマネジャー等の場合には、情報収集等においてとるべき具体的な行動がわからないという課題があげられている。これらの課題に対応するため、手法の学び始めや初任段階~中程度のケアマネジャー向けのエントリーモデルとして、実践チェックリストの検討を令和3年度より開始した。実践チェックリストは、事例類型やかかわりの時期ごとに最低限実施することが望ましい行動指針を取りまとめたものである。令和3年度事業では高齢者の世帯類型のうち「独居」を、令和4年度事業では「高齢者のみ世帯(老老)」についてチェックリスト(案)を作成した。

 (4)課題分析標準項目の整理・検討

 課題分析標準項目は、「平成11年11月11日老企29号厚生省老人保健福祉局企画課長通知」において「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」として示された内容であり、介護保険制度の開始以降、大幅な見直しは行われていない。高齢者の状態増や高齢者を取り巻く環境の変化、LIFEの導入や法定研修のカリキュラム改定等の状況を踏まえると、現在の実践との乖離や課題を整理のうえ、修正を検討する必要があるとして検討が開始した。
 本事業の検討では、情報収集のための項目のみについて項目構成や表記内容の検討を行うこととし、アセスメント時の「分析の視点」については、検討の範囲外とした。課題分析標準項目検討ワーキング・グループを組成し課題分析標準項目の修正案を作成し、検討委員会に提出し承認を得た。
 検討の結果、本項目の位置づけやケアマネジメント業務への影響も考慮すると、以下のような修正案が考えられる。なお、「項目の主な内容(例)」について、現行の項目よりもかなり詳細化しているが、これはあくまでも例示であって、これらの情報項目をすべて把握しなければならないというものではない。むしろ、具体的な例を示すことで、各事例に合わせてより具体的な情報収集を行いやすくし、各標準項目において実施する情報収集の水準の底上げを図り、個別的なケアマネジメント実践の質の向上を図るものである。



4.今後の課題
 これまでの成果も踏まえた検討の結果、今後本テーマが取り組むべき課題として、(1)多職種協働での手法の活用・普及(①ケアマネジャーによる実践での手法活用、②多職種協働に向けた普及、③保険者向けの普及)、(2)長期データ収集による検証、(3)業務への組み込み検討をそれぞれ抽出・整理した。

※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。

適切なケアマネジメント手法の策定、普及推進に向けた調査研究事業 報告書

別冊資料
「適切なケアマネジメント手法実践研修」実施報告書

<参考>
本手法に関連して厚生労働省から介護保険最新情報での情報提供も行われています。こちらもご参照ください。
適切なケアマネジメント手法の策定、普及推進(厚生労働省ウェブページ)

本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター マネジャー 辻本 まりえ
TEL: 080-9673-8693   
E-mail: tsujimoto.marieatjri.co.jp
(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ