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薬局薬剤師・保険薬局の価値向上に向けた提言

2023年03月30日 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム


提言資料(本体)
提言資料(サマリー)

1.背景

 国民医療費の増大により、「医療費削減」が各所でうたわれている。柿原らの試算方法を活用した、高齢化率で補正した日本の国民医療費は、国際比較で突出して高くはない可能性があり(※1~4)、削減ありきの議論にのみ注力すべきではないと考える。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本は2060年代に高齢化率約40%に達すると推計され(※5)、極めて厳しい財政状況を鑑みれば、限られた医療費財源を効率的・効果的に活用するシステムへの転換が必要である。
 国民医療費の削減において、これまでは薬価・材料価格の改定が対象とされてきた。医療費支出増大の要因全体が可視化された上で、削減の在り方が検討されているとは言いがたく、医療保険制度の持続性を確保するためには、制度全体の改革が不可欠である。
 これまで、「効率的・効果的な医療提供体制構築に向けた研究チーム」では、国民の一生涯の健康を地域多職種連携で診るプライマリ・ケアチーム体制整備を提言してきた。本提言では、特にプライマリ・ケアチームを支える薬局薬剤師や所属する保険薬局に着目をする。薬局薬剤師が価値ある機能・役割を発揮し、保険薬局が薬局薬剤師の活動を支え、真のプライマリ・ケアを実現するために求められる取り組みを提言する。
 2015年に公表された「患者のための薬局ビジョン」(※6)を契機に、さまざまな政府会議体で薬局や薬剤師に関する議論が進んでいるが、薬局薬剤師や保険薬局が地域においてさらに機能・役割や価値を発揮する可能性は十分にあると考える。

2. 提言策定の手法

(1)デスクトップ・インタビュー調査>
 国内外の薬局薬剤師・保険薬局の役割や機能、価値についての実態や研究動向を把握するため、各種文献調査を実施した。国内外の実態を詳細に把握するために、薬局薬剤師・保険薬局に関連する領域の有識者(アカデミア、薬局薬剤師、医師等)計11名にインタビュー調査を実施した。

(2)医師向けアンケート調査
 薬局薬剤師や保険薬局に対する機能・役割に対する認識や、ニーズを把握するために、日本プライマリ・ケア連合学会協力の下、所属する医師に対するアンケート調査を実施した。

(3)有識者研究会における議論
 有識者(アカデミア、薬局薬剤師、医師等)9名が委員を務める「薬局価値向上研究会」を組成し、プライマリ・ケア推進における薬局薬剤師・保険薬局の価値向上に向けた機能・役割の在り方や課題、取り組み施策に関する議論・検討を行った。また、提言内容の妥当性、実現可能性への助言を受けた。
 「薬局価値向上研究会」の委員は以下の通り。



3.本提言の概要

[提言①] 薬局薬剤師の機能・役割や価値の明確化
 「患者のための薬局ビジョン」が公表された2015年以降、認定薬局等の制度化により、徐々に薬局薬剤師が担うべき機能・役割が具体化されてきた。一方、薬局薬剤師がどのような機能・役割を発揮するのかは個々の薬局薬剤師や保険薬局に依存している部分も多い。そこで、薬局薬剤師の機能・役割やその価値を明確化し、その実現・実装に向けた取り組みが必要であると考える。
 具体的に薬局薬剤師に期待される機能・役割として、医師や病院薬剤師、看護師等との多職種連携、服薬指導、健康指導、患者教育・フォローアップを中心とする患者指導、各種疾患に対するケア等が挙げられる。特に各種疾患に対するケアに着目すると、認知症、がん、糖尿病、心不全に対するケアや、禁煙支援がその機能・役割として期待される。
 また、諸外国では、薬局薬剤師がプライマリ・ケアの一員として重要な役割を担っている。具体的には、慢性疾患の医薬品の処方やワクチンの接種等、日本の薬局薬剤師にはない機能・役割を有している。これらは、医師を中心とする多職種からのタスクシフトが中心となっており、慢性疾患の適切な管理や、医師の業務効率化、医療費適正化に貢献している。長時間労働が常態化し、医師の働き方改革が議論されるわが国においても、これら薬局薬剤師の新たな機能実装に向けた長期的な議論が必要であると考える。

[提言②] 薬局薬剤師の機能・役割や価値の浸透
 提言①で言及した薬局薬剤師の機能・役割や価値が明確になっていないことに加え、機能・役割や価値がどれくらい実現されているか、その実態が把握されていないことも課題である。価値ある薬局薬剤師の機能・役割を浸透させていくために、薬局薬剤師・保険薬局のKPIを設定し、計測・改善を行っていくことが重要である。
 KPIは、期待される薬局薬剤師の機能・役割やその価値を適切に計測でき、多忙な薬局薬剤師であっても業務として十分に計測可能であることが重要である。短期的なKPIとして、各種疾患に関する教育を受けた薬局薬剤師や専門薬剤師の在籍数、相談応需の件数、処方やフォローアップ・服薬モニタリングの件数、啓発活動の実施件数が挙げられる。
 これらKPIが保険薬局の現場で活用され、PDCAサイクルを回すことで、提言①で言及した、価値のある薬局薬剤師の機能・役割が浸透するものと考える。

[提言③]  プライマリ・ケアチームや国民からの薬局薬剤師の認知向上
 各種調査結果、有識者や保険薬局の現場で活躍する薬局薬剤師に共通する認識として、プライマリ・ケアチームや国民から、薬局薬剤師や保険薬局はどのような存在であるか、何をしてくれるのか、何ができるのか、その認知が低いことが挙げられる。認知が低いゆえに、本来発揮できたかもしれない薬局薬剤師の機能・役割や価値がプライマリ・ケアチームや国民に対して十分に提供できていない可能性が考えられる。
 プライマリ・ケアチームや国民からの薬局薬剤師の認知向上に向けた取り組みとして、「臨床(教育)」「研究」「広報」の3点があると考える。「臨床(教育)」の点では、薬局薬剤師とプライマリ・ケアチームが臨床(教育)の現場で連携する機会は限定的であり、連携機会を増加させる活動が不可欠である。また、研究の点では、臨床研究を実施できる薬局薬剤師の数は限定的であり、研究成果が得られたとしても、臨床研究による成果の検証や十分なエビデンスの蓄積がなされておらず、現場への普及が進んでいない。そのため、臨床研究を行う薬局薬剤師を育成し、薬局薬剤師自らエビデンスを構築し世に発信することが不可欠である。さらに、広報の点では、個々の保険薬局による情報発信に限定されており、プライマリ・ケアチームや国民から薬局薬剤師・保険薬局について正しく理解されていない。保険薬局のみに任せることなく、業界の広報活動を行うことが期待される。
 これらの施策により、プライマリ・ケアチームや国民からの認知が高まり、提言①で言及した価値のある薬局薬剤師の機能・役割が浸透するものと考える。

[提言④]  薬局薬剤師が機能・役割を発揮するための保険薬局のあり方
 健康サポート薬局や認定薬局(地域連携薬局・専門医療機関連携薬局)に求められる機能・役割は明確になっているものの、機能・役割の実態は明らかとなっていない。また、薬局薬剤師が提言①で言及した価値ある機能・役割を十分に発揮するためには、保険薬局の機能・役割に変革が求められる。
 薬局薬剤師が機能・役割を発揮するための保険薬局のあり方として、健康サポート薬局、認定薬局(地域連携薬局・専門医療機関連携薬局)が担っている役割の実態を把握し改善することで、適切に薬局薬剤師の活動を支えることが不可欠である。
 また、保険薬局が薬局薬剤師へ適切に投資できるよう、既存業務の効率化により、付加価値の低い業務から薬局薬剤師を解放すること、保険薬局として収益性を改善していくことが不可欠である。保険薬局の収益性改善の観点では、薬局・薬剤師の機能・役割や価値に基づく調剤報酬の適正化の推進、調剤報酬に依存しない保険外サービス等新規事業による収益性向上を目指すことが必要である。

<参考文献>
(※1):OECD[2022].『Health expenditure and financing』
(※2):OECD[2022].『Population Statistics』
(※3):厚生労働省[2018].『平成28年度 国民医療費の概況』
(※4):柿原浩明ら[2016].「医療費の新国際比較-高齢化率補正の試み-」『週刊社会保障』No.2885 2016年8月
(※5):国立社会保障・人口問題研究所[2017].『日本の将来推計人口(平成29年推計)』
(※6):厚生労働省[2015].『「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~』

<本提言の帰属>
 本提言は、株式会社日本総合研究所「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」が公正・公平な視点を心がけて、国民・医療従事者視点で中長期的な観点から社会貢献をしたいと考え、意見を取りまとめ、提示するものである。

<持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム>
取りまとめ リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー 川舟 広徒
社内アドバイザー 調査部 副主任研究員 成瀬 道紀
社内アドバイザー リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 川崎 真規
社内メンバー リサーチ・コンサルティング部門 ⼩倉 周⼈ 長崎 俊憲

<本件に関するお問い合わせ>
マネジャー 川舟 広徒
E-mail: kawafune.hiroto@jri.co.jp

*本提言は一般社団法人日本保険薬局協会からの資金による調査研究業務の成果物ですが、その内容については「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」が自由かつ独立性のある調査研究によって取りまとめたものです。
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