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労働者協同組合法施行に伴い必要とされるキャリアコンサルタントの役割

2023年02月14日 小島明子


 2022年10月1日に労働者協同組合法が施行された。同法は、「協同労働」の理念を持つ団体のうち、同法の要件を満たす団体を「労働者協同組合」として、法人格を与えると共に、その設立、管理等の必要事項を定める法律である。「協同労働」とは、働く人が自ら出資をし、事業の運営に関わりつつ、事業に従事するという働き方を指す。協同労働に関わる人達(組合員)は、組合を組織し、組合の「出資」「経営」「労働」のすべてを担うことになる。同法の施行を機に、多様な働き方の1つとして、「協同労働」が広まっていくことが期待されている。
 労働者協同組合法施行によって、新たな役割が期待されるのが、企業や公的機関等でキャリア形成支援を行うキャリアコンサルタントである。「キャリアコンサルタント」とは、キャリアコンサルティングを行う専門家である。現在、キャリアコンサルタントの国家資格を取得している人は、約6万人に上り、企業やハローワーク、教育機関などで活躍をしている。キャリアコンサルタント自身が労働者協同組合を設立・参画することもできるが、職業情報等の提供の一環として、労働者協同組合に関する情報提供を行うことが期待される。
 では、誰にどのような形で情報提供を行うのが望ましいか、本稿では2点提案を行いたい。
 1つ目は、定年後等のシニアに対する活躍の場としての提案である。Indeed株式会社「シニア世代の就業」に関する意識調査(2022年)によれば、50代から70代の人(1,800名)に、シニア期に働きたいかどうかを尋ねたところ、全体の58.3%が「働きたい」もしくは「働く必要がある」と回答していることが明らかになっている。年代別にみると、50代は75.5%と非常に高く、60代で58.3%、70代で41.0%と年代が上がるほど下がる。一方、「収入よりもやりがいや社会貢献を重視した仕事をした方が良い」と考える人は、50代で49.5%、60代で56.8%、70代で67.7%と、年代が上がるほど高まっている。労働者協同組合は、労働者協同組合法第1条に基づき、持続可能で活力ある地域社会の実現に資する仕事を行うことが求められている。さらに、働き方も組合員同士の話し合いで決めるため、シニアにとって活躍しやすい環境といえるのではないであろうか。よって、定年前後の働き方を考えているシニアに対して、ハローワーク等で、労働者協同組合で働くという選択肢を提案できると考える。
 2つ目は、企業で働く従業員に対する副業・兼業の場としての提案である。日本経済団体連合会「副業・兼業に関するアンケート調査結果」によれば、2022年時点において、回答企業の70.5%が、自社の社員が社外で副業・兼業することを「認めている」(53.1%)または「認める予定」(17.5%)と答えた。常用労働者数5000人以上では、「認めている」(66.7%)または「認める予定」(17.2%)の合計は8割を超える。社外での副業・兼業を認めている企業の約4割が 「多様な働き方へのニーズの尊重」、「自律的なキャリア形成」といった点で効果を感じていることも示されている。労働者協同組合は、副業・兼業先の選択肢としても提案ができる。定年前から労働者協同組合に参画することは、定年後のセカンドキャリアの場になる可能性があるとともに、地域に貢献する仕事を行うことそのものが、従業員の社員教育にもつながると考える。
 現在、設立された労働者協同組合は17団体(2023年2月9日時点)であり、数としては多いとはいえない。しかし、キャリアコンサルタントによって、労働者協同組合に関する情報提供が行われれば、多くの人たちが、多様な働き方の選択肢の1つとして労働者協同組合を知り、労働者協同組合の設立や参画を通じて、新たな活躍の場につなげていくことができるのではないだろうか。

*キャリアコンサルティング協議会および講演者のご快諾を頂戴して、1月に実施した勉強会の資料を本オピニオンの参考情報として掲載します

参考資料①
「多様な働き方を実現し、地域社会の課題に取り組む労働者協同組合」
厚生労働省 雇用環境・均等局 勤労者生活課 労働者協同組合業務室長 水野 嘉郎 氏

参考資料②
「労働者協同組合法の解説」
弁護士 福田 隆行 氏     

参考資料③
「労働者協同組合法施行に伴いキャリアコンサルタントに求められる役割」
日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子 


本件に関する問い合わせ窓口 
日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子 
kojima.akikoatjri.co.jp
(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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